迷惑、顰蹙、無理難題。人生、困ってからがおもしろい。『ヴァラエティ』奥田英朗
奥田英朗の新刊短編集。と言っても、作品自体はずいぶん以前に書いたもので、単行本初収録のものを集めた蔵出し短編集だ。脱サラで会社を興し奮闘する男の姿を描いた「おれは社長だ!」と「毎度おおきに」は連作の短編。奥田には珍しいショートショート、イッセー尾形、山田太一との対談が2本、ほか短編4本という、まさにバラエティーに富んだ、奥田ファン待望の一冊。形式も書いた年代も、扱うテーマも全く違う作品は、奥田らしいユーモアあふれたものや、読んでいると胸が締め付けられるような切ないものまで多彩。渋滞中の車に、妻が知らない人を乗せ、その人たちが夫をいらだたせ、最後にはとんでもないことに巻き込んでいく「ドライブ・イン・サマー」。オウム真理教の手配犯が逮捕されたニュースを見て、それをヒントに、温泉街のレストランに住み込みで働く謎の女を主人公にした「住み込み可」。高校生の娘が、クリスマスに友達の家に泊るという“嘘”を見抜いてしまい悩む母親の姿にハラハラする「セブンティーン」。そして著者が7歳の時に伯母さんが死んだ実話をモチーフにした、少年と少女の物語「夏のアルバム」。まったく雰囲気の違う物語が読める贅沢な本だが、まとまりがないわけではない。そこにはユーモアや、人間の滑稽さ、膝を打つようなリアリティーのある描写など、そこかしこに奥田節のようなものが見え隠れし、おもちゃ箱のような楽しい構成でありながら、1冊の本として完結している。また、作品の間に収録されたイッセー尾形と山田太一との貴重な対談では、奥田がうまく2人の本音を引き出しつつ、奥田作品の原点が見える。本人曰く、“まとまらなかった短編集”をまとめて楽しめる一冊。