選挙はひとつの手段。投票は終わりではなく始まり 堀潤氏(NPO法人「8bitNews」代表)
東京都議会選挙は6月23日に告示され、7月2日に投開票される。昨年夏に小池百合子東京都知事が誕生して以来、都政に対する注目度はかつてないほど高い。そのなかで行われる都議選はどう読み解くべきか。ジャーナリストの堀潤氏に話を聞いた
まず小池都政についてはどういった評価を?
「情報公開、きちんと都民に分かりやすい言葉で説明する、古い慣習からの脱却、これまでタブーとされてきたことに切り込んでいくといった、みんなが変えてほしいと思っている部分にメスを入れているのは評価されるところだと思います。舛添都政でもそうだったんですが、グローバル的な発信を強めたいということに関してもよくやっていらっしゃると思います。特に変わったのが僕が毎朝やっているTOKYO MXのニュース番組『モーニングCROSS』の中に“東京インフォメーション”という東京都の情報を発信するコーナーがあるんですが、これまではアナウンサーの方が原稿を読んでVTRにナレーションを入れて終わりという感じでした。でも小池さんになってからは都の職員の現場の方が毎日日替わりで出てきて自分で喋るようになったんです。今まで顔の見えない都政、顔の見えない都の職員だったものを顔の見える存在にした。そういう情報発信力はさすがにメディア出身だけあって、すごく有能な方だと思います。ただ逆に言うとメディア戦略というものがたけているので、惑わされやすい。社会の受け止め方としては、“いいじゃない”というイメージが先行していて、なんなら日々刷り込まれている。分かりやすいフレーズ、非常に結集しやすいスローガンと統一されたイメージカラー。さまざまな文化的な側面から大衆にアピールする。そういうところでイメージはすごくいい。そこには惑わされないで有権者は自分できちんと実を見て投票するなりきちんとチェックするということが大事なんだと思います」
一都民として、そしてジャーナリストとして今回の都議選をどういう観点で見ている?
「まず政局に踊らされないようにということを有権者の皆さんには呼びかけたい。選挙ってつい自民党vs都民ファーストの会とか公明党が自民党とたもとを分かったけどそれは国政に影響するのかといった、そういう源平合戦を俯瞰して見るような感じになってしまいがちですが、そういうものとは距離を置いたほうがいい。政局は政局で、政治の物語は物語として楽しんでください。都議選では国政選挙と比べて、自分の日々の生活に直結する政策が掲げられます。福祉の問題だったり役所の窓口の手続きの仕方がどうなるのかとか、街で煙草を吸う吸わないの話がどうなるのかとか。そういった観点で政治家を選ぶわけですから、きちんと公約とか主張に耳を傾けて、ちゃんとやってくれる人を選ぶ。どこの政党でもいい。個人を見ていったほうがいいと思います。今は風が吹いていますが、イメージなどに惑わされずに、地に足のついた投票行動を行う癖をつけたほうがいい。国政レベルだと大きすぎちゃって自分の手を離れていく実感を持つと思うんです。だからこういう地域の選挙をきちんと経験するということが、私たち一人一人が今求められていることだと思います。だって国政にいくともっと風が吹いていますから。もっとイメージ戦だし、もっとドロドロとした思惑が渦巻く、政治家というよりも政治野郎たちの世界。どうしようもないですよね(笑)」
政策でいうと各政党とも似通ってきている感じがする。細かいところまで見ていかないと見誤ることもあるかも。昔ほど鮮明に色分けされていないぶん、有権者は頭を悩ますことが多そう。
「選挙ってひとつの手段にすぎないんです。一番大事なのは選挙の前や後にウオッチして議論すること。イメージでしか投票していない人が“選挙に行ったぜ!”と胸を張っても、“あなたはあなたの一票を悪魔への投資に使っちゃったかもね”っていうことになりかねない。じゃあどうすればいいのかというと“選挙に行こう”というスローガンをやめるべきだと思うんです。選挙に行くのが目的になっちゃっている。国政選挙でも選挙になったら投票率を上げようということになる。これは僕の持論なんですが、投票率を上げたからといって政治家たちの質が上がるとは思えない。だってイメージで選んじゃっているから。逆に言うと有権者側のきちんとウオッチをする人たちがきっちり選挙に行って、その後のウオッチに関してメディアが報道し続ければ少数精鋭でいい社会になると思うんです。でもメディアも報道を放棄しているじゃないですか。選挙特番をやったらその後打ち上げに行くんですよ(笑)。そして“次の選挙まではちょっと時間が空くな”って。そうじゃなくて本当はその後の議会の中継だったり国会の中継だったりが大事なのに、選挙になるとお祭りになってしまう。選挙を点でとらえるのではなく、その前後も含めた一つの線として見なきゃいけない」
常にウオッチしていないから、政治家に“どうせノド元過ぎれば忘れるんだよ”って言われちゃう。
「そう。でもそれは僕はメディアの責任だと思うんです。特にテレビ。テレビは共謀罪が成立した日でさえ、政治以外の楽なニュースをやっている。でもそのメディア側からすると、“だって見る人がいないんだもん。俺たちだって商売でやっているんだからさ”ってなる。じゃあNHKはというと、NHKの場合は思惑が強く働き過ぎている。“あの予算委員会を中継しないんかーい?”みたいな突っ込みが入ったりしていますよね(笑)」
メディアをそういう気にさせてしまう一因は有権者側にもある。だからウオッチすることを口を酸っぱくして言い続けるしかない。
「だからなるべく自分の番組では朝からそういう小難しい話をしっかりやろうと思っているんですが、知りたいという人はちゃんと見てくれている。視聴者を信じて向き合えば必ずできると思うんです。いつもみんな選挙特番ってすごく時間をかけて投票率は?ってやるけど、いやいや今日はプロローグですよ。まだ1?2ページ目くらい。これからがいよいよ本編ですよってときに、読者は本を閉じるし、書くほうはやめてしまう。それでは権力者になめられますよ」
昨今、さまざまな運動が盛んに行われていますが、これは投票行動につながっていくのでしょうか。
「多分、いま選挙に行っている人たちの議論の精度とか物事の見方みたいなものを熟させていくというところが初期段階なんだと思うんです。まだ熟していない。勝った負けたの源平合戦みたいになっている。相手を倒しにいって敗れて“僕らの民主主義は負けた?” とか言うんだけど、いやいやここからだからって思うんですよ。そうやって一時的に熱狂した人たちは常に次の話題を探して移っていく。そしてお祭りが終わるとみんな元いた場所に帰っちゃう。議論は積み残したまま。それってすごく残念だなって思うんです。共謀罪もここから始まりというかドラマが始まるのに、“民主主義は死んだ”とかフェイスブックに書いている。“いや、死んでないから。ここからだから”って思うんです。多数決なんか民主主義の1パーツに過ぎないのに、それがすべてみたいに思われてしまっているところは変えるべきかなって思います。都議選に立ち返ると、自分の地域のことなんだから自分で考え続けてウオッチしていくということが大事。ここから4年間お付き合いするパートナーを選ぶんです。その第1日目が選挙の投票日。ここからある意味居候されるようなものですよ(笑)。同居人のことって気になるでしょ。あとは勝手に部屋使っていいよって話ではないので、きっちりお付き合いをしていくんだというつもりで誰を選ぶのかということだと思います」(TOKYO HEADLINE・本吉英人)
堀氏は現在「モーニングCROSS」(TOKYO MX)のMC、「JAM THE WORLD」(J-WAVE)の火曜日ナビゲーターといった番組や、NPO法人「8bitNews」の代表として取材し情報を発信し続けている。そんななか5月には新たに「GARDEN Journalism」というメディアを立ち上げた。
「NPOとかNGOといった、いわゆる公益事業の現場を専門に取材して発信するメディアを新しく立ち上げました。NPOとかNGOって社会問題のコアなところに刺さっているんですが、なかなか社会にニュースとして発信されていない。例えば、シリア難民の支援などをトルコ側とヨルダン側でそれぞれやっているNGOやトルコからの避難民を日本で受け入れているNGOなどいろいろあるんですが、その人たちが具体的に現場でどんなことをやっていて、誰が関わっているのかということはほとんど報道されていない。そういうところは一生懸命いいことをしているんだけど、発信する余力がない。現場を支えるのに精いっぱい。ならば僕らが発信をお助けしましょうということなんです。ガーデンには“取材したい”“寄付したい”“参加したい”“共感する”という4つの参加の仕方があります。そうやって一人一人の力を社会問題の解決に役立てることができればと思っています」