「日本のアニメーター待ってます!」日本を舞台にした話題作 スタッフが熱烈アピール!?
「こんなに小さなパペットを使って、あれほど壮大な冒険映画を作ったんだと思うと、改めてすごいことだし誇らしく思うよ」と愛情たっぷりに“主演俳優”クボを紹介してくれたシフ氏。
『ティム・バートンのコープスブライド』『コララインとボタンの魔女』など数々の傑作ストップモーションアニメを生み出してきたスタジオライカが最新作の舞台に選んだのは、古き良き日本の昔話のような世界。“二弦の三味線”を奏で、折り紙を自在に操る不思議な能力を持った少年クボが、両親を奪い自分を狙う祖父“月の皇帝”に立ち向かう冒険物語だ。
ストップモーションアニメとは、人形などを一コマずつ動かしながら写真を撮り、それをつなげて映像にすることで自ら動いているかのように見せるアニメーション。本作でも“俳優”である人形をはじめ、森の中や洞窟といった地形、村の家々や船、怪物たちまでパペットやセットを制作。その精巧さと表現力は“人形アニメ”の範疇を超えている。
「人形たちが着ている衣装にまで徹底してこだわったよ。衣装デザイナーは日本にまで生地を探しに行ったんだ。大変だったのは、目が非常に細かい絹を見つけ出すこと。着物の生地の目が荒いと、それを着るパペットが、いかにも人形らしいサイズに見えてしまうからね。条件にふさわしい生地を見つけ、それをもとに衣装の素材を作っているんだ」
驚くのは、その精巧さだけではない。まるで日本で作られた作品では、と思うほど日本の昔話の世界が豊かに表現されているのだ。本作の文化考証の緻密さには舌を巻くばかり。
「日本文化のさまざまなことについて、僕らは徹底的にリサーチしたよ。初めて知ることも本当に多かった。例えば三味線のバチの持ち方とかね。最初のうちはよく他のアニメーターたちに“違う違う、バチの持ち方は小指を後ろに…”って教えなきゃいけなかった(笑)。あと印籠についても本作で初めて知ったよ。リサーチしていくなかで欠かせないアイテムだと知り、クボにもきちんと持たせることにしたんだ」
膨大なリサーチはあくまで最初の仕事。
「まず僕らは参考にするための膨大な資料を集め、それをスタッフと共有して世界観を作っていく。キャラクターが決まったら担当を決め、そのキャラの個性をつかむまで人物像をしっかり決め込んでいく。撮影に入ったら、監督がそのシーンでどんなことを求めているかを確認し、黒いカーテンの向こう側で一人、パペットを動かして写真を撮る、という作業を延々とやる。とても孤独な作業だよ(笑)。面白いのは、アニメーターによって得意な表現が違うこと。エモーショナルな表現が得意な人や、アクションシーンが得意な人、なぜか悪役の動きが上手な人とかね(笑)」
生き生きと動き回るクボは、まさにジュブナイル映画の主人公のよう。
「実はクボの動きは実写映画の少年たちを参考にしているんだ。少年の持つ遊び心を表現するのに参考にしたのが『グーニーズ』や『スタンド・バイ・ミー』。エモーショナルな場面は『E.T』のエリオット少年を参考にしたよ。クボはとても勇敢なキャラクターだけど決してアクションヒーローではない。だからそういう局面でも、いかに少年らしくリアルで自然な動きに見せるかを考えながら作ったんだ」
本作は1秒24コマ、すなわち1秒の映像を撮るために、動かしては写真を撮るという作業を24回行う計算になる。実際に1週間で出来上がる映像は平均時間3.31秒ほどだったという。そうして生み出された映像はCGアニメかと思うほど滑らか。
「スタジオライカは他のどのスタジオでもやっていないような、自然でスムーズなスタイルのストップモーションを目指しているんだ。ストップモーションというと、どうしても動きにぎこちなさが出るイメージだったけど、ライカはそれをさらに進化させようとしているスタジオなんだ」
とはいえ気の遠くなるような作業で生み出した映像が、ストップモーションと気づかれないのは、もったいないのでは…?
「いい質問だね(笑)。僕らが目指すのは、観客が完全に物語に没入できることなんだ。もし途中で“これってストップモーション? 誰かが一コマずつ人形を動かしたの?”なんて思ったら物語から覚めてしまうんじゃないかな。個人的に僕なら、それは自分の仕事が失敗したと考える。とはいえ一口にストップモーションといってもさまざまなスタイルがあって、僕はどんなものも大好きだけど、ライカではリアルで自然なモーションを目指しているんだ。一時期、CGアニメーションの台頭で、ストップモーションアニメはもう作られなくなるのでは、と言われたことがある。でも結果的にCGはストップモーションアニメに肉薄できておらず、むしろ逆にストップモーションアニメのほうがCGに近づいているように感じるね」
実物があるからこその質感を、どこまでも自然な動きで見せる。それがスタジオライカの腕の見せ所。
「幸運なことにライカでは世界中の優秀なストップモーションアニメーターが揃っている。アメリカはもちろんドイツ、スペイン、フランス、ブルガリア、カナダ、中国…日本からはまだいないから、ぜひ来てほしいんだけど(笑)」
ストップモーションアニメーターとして必要な資質とは?
「僕が思うにまず、人間の物理的な動きや肉体のことを肌感覚で理解している人だね。それによってリアルで滑らかな動きをつけることができるから。パペットを“動かす”ことと“動かして命を吹き込む”ことは、まったく別のことなんだ」
そして忍耐も必要では?
「そうとも言えるし違うとも言える(笑)。よく忍耐が必要でしょって言われるけど僕自身、ぜんぜん忍耐強いタイプじゃないしね。ただ特にうちのアニメーターに共通しているのは長い時間、集中力を持って作業できること。これはストップモーションアニメーターには重要な資質じゃないかな」
アニメーターとして好きな作業と嫌いは作業はある?
「一番好きなことは一日の終わりに、その日に撮った成果を見ることだね。つらいのは…そこに至るまでのすべての瞬間(笑)。僕らはパペットを小さなヴァンパイアと呼んでいるんだ。僕らの生命力を吸って命を得ているわけだから(笑)」
まさに自らの命を与えて生み出した作品が完成したときの思いは。
「いつも作品が完成すると、ともにヴァンパイアに命を吸われた仲間たちと(笑)その家族を呼んで、皆で完成作を見るんだ。本当に素晴らしい瞬間だったよ。こうして話していても鳥肌が立ってくるよ。本作の台本を最初に読んだときは、本当にワクワクしたけど同時に、できるのかなという気持ちにもなった。製作に入ってからも、始めたはいいけど間違いだったかも…と思う瞬間が何度もあったよ(笑)。だけどスタッフ皆のクリエイティブなスピリットが作品を完成させてくれたんだ。もちろん物語も、どんなシーンがあるのかも知っていたけど、見ていて何度も涙が込み上げてきた。それは、僕らが心からこの作品を愛しているから、そして、そんな作品を世に送り出すことができた達成感ゆえだと思う」
この作品はライカから日本へのラブレターです、とシフ氏。ストップモーションであることを意識するのはエンドロールまで待っておいて、まずは物語と世界観に入り込んで!
STORY:三味線の音色で折り紙に命を与え、意のままに操るという不思議な力を持つ少年・クボ。幼いころ、闇の魔力を持つ祖父に狙われ、助けようとした父親は命を落とした。その時片目を奪われたクボは、最果ての地まで逃れ母と暮らしていたが、さらなる闇の刺客によって母さえも失くしてしまう。
追手から逃れながらクボは、面倒見の良いサルと、ノリは軽いが弓の名手のクワガタという仲間を得て、父母の仇を討とうとするが…。
監督:トラヴィス・ナイト 声の出演:アート・パーキンソン、シャーリーズ・セロン、マシュー・マコノヒー、レイフ・ファインズ、ルーニー・マーラ他 日本語吹き替え版 声の出演:/1時間43分/ギャガ配給/11月18日より新宿バルト9他にて公開 http://gaga.ne.jp/kubo
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