人気ボカロ作曲家40mPの初の実写映画『トリノコシティ』上映開始
思春期の少女特有の微妙な気持ちの揺れを繊細なタッチで描く
人気ボーカロイドプロデューサー40mPの楽曲の初の映像化作品となる映画「トリノコシティ」が12月23日から公開され、初日舞台挨拶に監督の山口ヒロキ、40mP、主演の山崎丹奈ら出演者が登壇した。
作品は原曲に描かれた思春期の少女の孤独な心情描写に、山口監督特有のSFテイストを加え、その相乗効果から生み出される物語を映像化したもの。今月初旬に開催された「第10回網走映画祭」では記念特別招待作品に選ばれている。
山口監督は最近ではイケメン俳優たちを擁した『メサイア』シリーズ、三家本礼原作の『血まみれスケバンチェーンソー』といった派手めな作品を手掛けることが多かったのだが、本作では代表作でもある『グシャノビンヅメ』で描いたような思春期の少女特有の微妙な気持ちの揺れを繊細なタッチで描いており、いわば山口監督の面目躍如といったところ。
舞台挨拶では最初に挨拶した山崎が「初主演の初日というのが人生の中で今日なんだなって実感しています」といきなり感極まる場面も。演じた主人公の女子高生・明日夏については「明日夏は等身大の高校生の女の子だったというか、私が高校生の時に持っていたものと共通した思いや悩みを抱えていたので、自分の高校生の時を思い出しながら演じた。実家に帰って卒業アルバムを開いたりしたが、そういうところで、すごく懐かしい思いもあった。そこから頑張っているから今があるんだなという勇気付けられるような役でもあって、今の自分を感じながら、昔の自分のことも感じながら演じた役だった」と話した。
「弔屋」という謎に包まれた役を演じた玉城裕規は山口作品には今回で4作目の出演となるのだが「監督とどういうふうに違和感を出していくか、といったことを話し合いながらやっていたが、その作業も楽しかった。生きる意味とかなんで生きているんだろうというのはトリノコシティのメーンを担っているワード。たまにそういうことは考えたりするので、生きている人間を客観的に見ている(弔屋を演じた)ことは、少し勉強になった。見ていて楽しかった」と話した。また撮影現場については「監督の作品の共通点はスケジュールがタイトなこと。でもそんな中でも綺麗な画だったり、伝えたいことを切り取っていただけるので、安心感というか不安要素はなかった」などと話した。
40mP「いつか映画の音楽を作ってみたいという気持ちはずっと持っていた」
劇中の音楽も制作した40mPは「自分の曲が小説化や漫画化されたことはあったが、映像化というのは今回が初めて。どんなふうになるのか全く想像がつかない中で、ちょっと見てみたいという気持ちもあった。お話をいただいて監督やプロデューサーさんとお話しする中で、この人たちならきっと原曲をちゃんとくみ取っていいものを作ってくれるんじゃないかなという熱意を感じたので、ぜひ映像を見てみたいと思って受けさせていただいた」と話した。そして実際に作品を見て「完成版を見たのは今日が初めて。音楽がどんなふうに使われているのか分からない状態だったので緊張しながら見ていた。音楽が使われていなかったらどうしよう、って。実際、使われていない曲もあったんですが(笑)。もともと音楽を始めたきっかけが小学生の時に『もののけ姫』を映画館で見て久石譲さんの音楽にすごい感動してピアノを始めたことだったので、いつか映画の音楽を作ってみたいという気持ちはずっと持っていた。今回それが叶って光栄に思っています。みなさん、撮影がタイトだったと言ってましたが、音楽のほうも半月くらいしかなくて(笑)。どうしようかなと思いながらの作業だったんですが、作っている間はすごく楽しくて。今までやったことのないことだったし、もともと自分のやりたいことだったので、やりがいを感じながら制作できた」などと話した。
最後に山口監督は「今までも原作のある作品をやらせていただいたことがあるんですが、原作ものをやる時に常に気をつけなければと思っているのは、まず原作の世界観だったりイメージだったりメッセージをどれだけ大切にできるかということ。それをスタッフやキャストとちゃんと共有していくということをやっている。今回、特に難しかったのは歌詞から物語を作り出すというところ。そのなかで40mPさんが曲に込めたメッセージや思いをいかにくみ取って、いかに物語に表現するかということをプロデューサーの岩田さんや脚本家の横山さんとも時間をかけて話し合った」などと話した。
同作はシネマート新宿で1月5日まで上演。その後、全国で順次公開の予定。