【インタビュー】映画『アイスと雨音』監督 松居大悟 この物語、どこが現実でどこが虚構なのか…
劇作家・演出家で映画監督の松居大悟の新作映画『アイスと雨音』が3月3日から公開される。この作品は実際の出来事をもとにした“現実と虚構”が描かれている。果たして何が現実で、何が虚構なのか…。
物語の舞台は2017年、予定されていた演劇公演が突如中止となった小さな町。登場人物はそこで初舞台を踏むことになっていた6人の少年少女たち、とそれを取り巻く関係者の大人たち。作品では公演中止を告げられた若者たちの1カ月間を「74分ワンカット」という手法で撮影。
ちなみに上演中止となった作品はイギリスの劇作家サイモン・スティーヴンスの『MORNING』というまだ日本では上演されていない戯曲。
というのが映画を、そしてこのインタビューを読む前の前情報にして、出せる情報のすべて。
「今まで舞台に立ったことのない人が一度舞台に立ったらきっと人生が変わると思うし、それをやるかやらないか悩んでいたり、やると決めた覚悟の気持ちとかはどうなるのか。そして空いた劇場のスケジュールを埋めるために何をすべきか。そんなことを考えていたら、この気持ちを映画にしよう。舞台が中止になったことを描いた映像を作ろうと思いました」
松居自身、本作では上演中止を告げられる演出家役で出演。この言葉は現実の松居の言葉なのか、作品中の演出家の気持ちを代弁したものなのか…。
「自主製作でもいいから作ろうと思って、今回、音楽を担当してくれたMOROHAのアフロ君にそんな話をしていたら“松居さん、怒りって半年とか経ったら絶対忘れちゃうから絶対に今やったほうがいいよ。次の舞台とか始まったら忙しくなっちゃって忘れちゃうから。今怒っている気持ちは今ここにあるから”って言われて“そうだな”って思って、すぐに映画の準備を始めました」
そして映画を撮ることになるのだが、74分一発撮りという手法を取ったのはなぜ? 予算? 時間? 前からやってみたかった?
「舞台が中止になったという映画を撮るにあたり、どういうふうに撮ろうかと考えたんですが、舞台って幕が開いたら最後まで止まることなく終わるじゃないですか。役者は舞台が始まったらそのままカーテンコールまで行く。そういうものを映像的に見せたいと思った時に、カットをかけずに最後までいけば、それはきっと舞台でやっていることと変わらないことなんじゃないかと思ったんです」
一発撮り自体は何回も?
「作品になっているのは最後に撮った4回目のものです。本番は土日の2日間。リハーサルもかねてだったんですけど、土曜日に2回撮って日曜日に備えた。でも、日曜日は朝からすごく雨が降り出して、“うわ、終わった”と思ったんですが、“でもしようがない。今日撮らないと終わりだから”って1回目を撮ったんですが芝居が全然ダメで、“もう1回やろう”ってなって2回目をやった。そうしたら今度は外のシーンではちょうどいい具合に雨がやんだり、雨をにおわせるシーンでは雨が強くなったりとかいろいろうまくいって、泣きながらOKを出しました(笑)」
主演の森田想をはじめ、若い俳優たちの迫真の演技が心に残る。
「主演は森田想なんですが、その友達役の田中怜子という子が完全に演技未経験なんです。大阪からオーディションを受けに来た。その時の脚本の台詞の読み方が、本当になんのフィルターもかかっていなくて、グッときて。この映画の成り立ちを考えると、この映画にとって一番必要な存在だと思ったんです。そうなると、この子の相方となる主人公は田中怜子を向こう側に連れていけるような存在感と、やることがめちゃくちゃ多いから圧倒的にうまくて魅力的な子じゃないといけない。そう思っていたら、最後のグループで森田さんが出てきた。彼女は多分これからどんどん出てくるんじゃないかと思います。圧倒的にうまかった。でも彼女は技術がありすぎて、全部うまくできてしまう。そうなると“うますぎてつまんねえな” と思って、“1回全部忘れよう”といった話をしました。“全然戦っているように見えない。戦っている風なお芝居をしているだけで本当に戦っていない”と伝え、結構やりあいました」
主宰する劇団、ゴジゲンが今年10周年を迎える。昨年は名脇役といわれるベテラン俳優たちをずらりとそろえ話題となったドラマ『バイプレイヤーズ』でメイン監督を務めるなど映像の世界でも活躍中。今年はどんな活動を?
「今は『バイプレイヤーズ』の続編を撮っています。今年はゴジゲン10周年なので、劇団の企画もいろいろ準備していて。映画と演劇の両方をやっている方はたくさんいますが、なんだかんだいって皆さん、どっちかに重きを置く気がしていて、僕はどっちでもない感じでいたいと思っています。“舞台が好きだからこういう感じの映像の演出になるんだ”とか、“映像の人だからこういう舞台の演出になるんだ”というふうに見られるのが嫌なんです。別に舞台とか映像にこだわっているわけではなく、面白いことを好きな人とやっていきたい。媒体はなんでもいい。一緒にやる人が僕にとって大事なので、その人とやるのが舞台がいいなら舞台をやるし、映像がいいなら映像をやる。結果的にそうなっているだけ、な感じはしています」
この映画は松居が目指す生き方を如実に現した作品にも見える。
「そうなんです。この作品は舞台だけやっている人にはできないし、映像だけやっている人にもできない、自分らしい作品だと思います。でも計算したわけではなく結果的にできた。だから今となってはいろいろな人には感謝です(笑)」
(本紙・本吉英人)
監督:松居大悟 出演:森田想、田中怜子、田中偉登、青木柚、紅甘、戸塚丈太郎、MOROHA他/1時間14分/SPOTTED PRODUCTI
ONS配給/3月3日(土)より、渋谷ユーロスペース、イオンシネマ板橋ほか順次ロードショー決行!
http://ice-amaoto.com/http://ice-amaoto.com/