名匠トッド・ヘインズは“王道”に関心なし!?
『キャロル』『エデンより彼方に』の名匠トッド・ヘインズ監督が最新作『ワンダーストラック』の公開に合わせ来日。日本を訪れるのは実は20年ぶりのこと。
「あのときは『ベルベット・ゴールドマイン』での来日だったからロック雑誌のインタビューをたくさん受けたね。T・レックスの大ファンだというミュージシャンに会ったのを覚えているよ(笑)。日本にもグラムロックカルチャーがあって、あの作品とクロスオーバーしている感じが面白かったな。あとほら日本の漫画で、きれいな男の子たち同士の…なんて言ったっけ。“ヤオイ”ね、ああいうカルチャーも面白いと思ったよ」
僕だけじゃないよ、ジョン・キャメロン・ミッチェルもヤオイファンだと言ってたもん、とお茶目な笑顔。
そんな彼が今回手掛けたのは『ヒューゴの不思議な発明』の原作者ブライアン・セルズニックによる児童文学の映画化。
「あのときは『ベルベット・ゴールドマイン』での来日だったからロック雑誌のインタビューをたくさん受けたね。日本にもグラムロックカルチャーがあって、あの作品とクロスオーバーしている感じが面白かったよ。今回手掛けたのは『ヒューゴの不思議な発明』の原作者ブライアン・セルズニックの児童文学の映画化。「今回はすばらしい原作があったからね。ブライアンは用事がなくても毎日のように現場に足を運んでくれた。『ヒューゴ』のときはそんなことはなかったみたいだけど(笑)。編集中の作品なども見て感想を言ってくれたり、最初から最後までこの作品を見守ってくれていた。彼の夫と一緒に完成作を見てくれたんだけど2人して涙を流していたね。実は1920年代のシーンに、カメオで出演もしてくれているよ。彼は心からこの映画を愛してくれたんだ」
セルズニックも監督のまなざしに深く共感したに違いない。
「僕は描きたいのは、自分は何者なのかという葛藤や、世界が生きやすい場所ではないと感じている人の物語。それは逃避主義ということではなく、それが人生のリアルだと思うから。と同時に、新しいことに挑戦するのも好きだね。今回でいえば、子供が主人公であることや、直球のミステリーであること、これはどちらも僕にとって初めての挑戦だったんだ。まだまだやったことのないことは多いから、今後何をやるのか自分でも楽しみだよ(笑)。ただ『ワンダーストラック』は特別な作品だと思う。原作は児童文学で、ミステリーでもあり、2つの時代の物語が交差しながら語られていく。こんな構造の作品はあまり見たことが無いね」
母を失った少年が遺品から見つけた本を手掛かりに実父を探す1970年代の物語と、聴覚障害の少女があこがれの女優に会いに行く1920年代の物語が、カラーとモノクロで交互に描かれていく。時代の違う2人の子供たちの冒険に隠された謎が少しずつ明かされ…。
これまでにも監督は、社会からはみ出したり捨て置かれたような人々を見つめ続けてきた。監督がインディペンデントでの映画づくりを愛しているのも、そんな“はみ出し者”たちへの共感と相通じるのでは。
「アウトサイダーという言い方のほうが、しっくりくるかもしれないね。僕が作った映画も、僕が引かれる映画もアウトサイダー的だし、僕自身、商業映画と呼ばれるものにはあまり関心が無いんだ」
インディーズで奮闘する日本の映画製作者たちにエールとアドバイスを。
「日本の映画界のシステムのことは知らないけど、ストリーミング会社が参入したことで世界的にチャンスや選択肢がすごく増えていると思う。いい意味で競争が生まれて、制作されるも作品の種類が増えたしね。ケーブルやネットでは商業映画よりダークで挑戦的な作品が好まれていた時期もあったよね。メインストリームから離れた場所でも、作品を作る選択肢が増えていると思う。今や映画はスマホでも作ることもできるし、ラップトップで編集もできる。いろんな方法で試行錯誤して、比較的スピーディーに、安い費用で自分のイメージを形にすることができる。映画作家であるなら、とにかくいろんな方法で、作品に命を吹き込むさまを経験するべきだ。作り手は、作って人に見てもらい、反応を受け止めることでしか成長できない。とにかく作品を作ること、これにつきるよ(笑)!」
人生は常にパーフェクトなものではない。だからこそアウトサイダーの物語は誰の心にも響く。
「家族を失ったり社会から外れたりすることは誰にでも起こりうるし、人は誰でも自分自身について知りたいと思うものだ。この映画で描かれていることは、いつの時代の子供たちも感じてきたこと。僕にとっては、ごく普遍的なテーマなんだ」
監督:トッド・ヘインズ 出演:オークス・フェグリー、ミリセント・シモンズ、ジュリアン・ムーア他/1時間57分/KADOKAWA配給/角川シネマ有楽町他にて公開中 wonderstruck-movie.jp/