【インタビュー】イケメン落語家のスーパーユニット RAKUGOKA★5 「目標は紅白出場」
空前の落語ブームが到来し、都内で開催される落語会は毎月1000を超えるという。そのブームの一端を担っているのが、いわゆる“イケメン”落語家たち。中でも人気の5人の若手落語家がユニットを結成、CDを発売した。今までにない新しい試みだという落語と音楽の融合とは? メンバー3人とプロデューサー・新田一郎氏に聞いた。
今回結成されたRAKUGOKA★5のメンバーは真打の三遊亭王楽、二つ目の瀧川鯉斗、春風亭昇々、柳亭市弥、桂あおばの5名。いずれ劣らぬイケメンで、女性ファンが急増中の若手だ。「いわゆる“七人の侍”のように、プロデューサーさんに集められた5人なんです」とリーダーの王楽。
新田「彼らのような若手の落語家さんがきっかけで、現在のような落語ブームが起こっているのを知って、誰がいいかなって調べさせていただいたんです。その中で、いいなって思った一人一人に個別に当たっていって、この5人になりました」
王楽「白羽の矢が立った…のかな(笑)?」
新田「そう。もし興味があったら会えますかっていうところから始まって、実際会ってお話しして。そこから面白いからやってみましょうという経緯ですね」
そもそも落語と音楽を融合させようと思ったのは?
新田「僕自身、もともと落語好きだったんです。で、以前うちの事務所にいた嘉門達夫がもともと噺家だったのをきっかけに、1度“お伊勢参り”という古典落語を音楽と融合させて作品を作ったんですね。それが結構出来が良く、本物の落語家さんとやればもっと面白いものができるんじゃないかと。それから20年ぐらいやりたいと思い続けて、空前の落語ブームといわれる今がいいタイミングかなと思い、今回のアルバムを制作しました」
プロデューサーの眼鏡にかない集められた5人。共通点は“イケメン”である事。それ以外は個性がバラバラでユニークなメンバーだ。それぞれの入門のきっかけもおもしろい。
鯉斗「もともと地元の名古屋で“スペクター”っていう暴走族の総長をやっていて、50人ぐらいのメンバーを束ねていました。その後、役者になろうと思って上京してきたんですが、それまで落語なんてまったく知らなかった。まあ、でも役者じゃ全然食えなかったので、レストランでアルバイトをしていた時に、うちの師匠と運命的な出会いをするわけです」
元ミュージシャンの人が経営していたそのレストランでは、鯉斗の師匠瀧川鯉昇が、年に2回独演会を行っていた。
鯉斗「皿洗いをしているとオーナーが“後ろに回って師匠の落語を見ていいよ” って言ってくれたんです。師匠は『芝浜』という古典落語をやっていたんですけど、もう“すげーな”って。一人で男も女も何役もやるわけじゃないですか。思わず見たその日のうちに“弟子にして下さい”ってお願いしました(笑)」
王楽「その日のうちにっていう決断力がすごいよね」
鯉斗「めちゃくちゃうまかったんです、師匠の落語」
市弥「“うまかった”って過去形?(笑)」
鯉斗「いや、あの…めちゃくちゃうまいです!」
王楽「もちろんです。とても素晴らしい芸をお持ちの師匠ですから」
鯉斗「とにかく“この人スゴイ!”と思わせてくれた師匠なので、迷うことなく弟子になりました。でも元暴走族だから漢字が全然読めなかった。というより日本語が読めなかった(笑)。師匠が縦に書いてくれたものを横に読んで、師匠から“日本語は縦に読むんだよ”って教えてもらったり(笑)」
王楽「お前、大丈夫か(笑)」
鯉斗「暴走族って夜の12時に集合っていったら時間厳守なので、自分は遅刻はしなかった。そこは師匠に“暴走族って偉いな”って褒められました(笑)」
王楽「あの話は本当なの? (立川)談春師匠に稽古つけてもらいに行って、鎖骨を下げると女性らしく見えるよっていうテクニックを教わったっていう…」
鯉斗「ああ、本当です。鎖骨は下げられるようになったんですけど、右骨(うこつ)はどうしましょうって言った」
王楽・市弥(爆笑)
王楽「左骨(さこつ)と思ったのね(笑)。面白いよね。天然だから、鯉斗君は(笑)」
鯉斗「天然かな…。市弥君、俺って天然?」
市弥「天然、天然(笑)。真っすぐな天然。ブレないから(笑)」
鯉斗「ブレないから助かりますよね」
市弥「自分で言うんだ(笑)。助かるね」
王楽「ただ、一緒にやってる俺たちメンバーは助からない(笑)」
市弥の師匠は落語協会会長の柳亭市馬。師匠は親も同然というが、本当の親もかなりユニークなようで…。
市弥「寄席にはよく通っていましたから、権太楼師匠やさん喬師匠、歌之助師匠など、面白いなと思う師匠はたくさん知っていたんですけど、うちの師匠の落語はすごく分かりやすかったんです。声がいいし、とにかく聞きやすい。そこにビビっときて、弟子入りを決めました。実は僕、大学を卒業してから1年半ぐらい大阪でサラリーマンをしていたんです。落語が大好きな父の影響で、お笑いの道に行きたいなという気持ちはあったんですけど、周りからちゃんと就職したほうがいいと言われて。それで就職してみたものの、やっぱりお笑いが、落語がやりたいという思いはあきらめられなかった。うちの父親はすごく面白くて、落研にも入っていたし、5代目小さんに弟子入りを志願しに行ったこともあるという…」
王楽「そうなの?! で、息子はその5代目のお弟子さんに弟子入り(笑)」
市弥「そうなんです。で、断られたっていうから、なんで断られたのって聞いたら“まだランドセル背負っていたから”って(笑)」
王楽「その頃か(笑)」
市弥「だから寄席にもしょっちゅう行ってましたし、家ではCDも流れていたり、子守歌代わりに小噺を聞かされていたり…」
鯉斗「ほぼ、2世じゃん」
王楽「ほぼってなんだよ、ほぼって(笑)」
そして唯一真打の王楽は、笑点の大喜利メンバー・三遊亭好楽を父に持つ本物の2世。しかし、落語家になるつもりはさらさらなかったと言う。
王楽「笑点のピンクの人がパパなわけですが、落語にはまったく興味がなく、全然聞いた事がなかったんです。父は僕が物心ついた時からテレビに出ていましたけど、おとなしく引っ込み思案だった僕は、父が有名人だというのがものすごく恥ずかしくて、むしろ毛嫌いしていた。特に小中学生の時って、地元の学校に行っているから、みんなが知っていて、いじられるわけですよ。校長先生まで月曜の朝礼で『家入君(本名)のお父さんは、昨日座布団3枚取られましたが、それにも負けずに頑張りましょう』とか言う(笑)。だから、地元じゃない私立の高校に入った時は、めちゃくちゃ快適でした。素性が知られてないってこんなにいいんだって(笑)。そんな感じだったんですけど、ある時父親の同期の円橘師匠から、映画評論家がゲストに来る落語会があるからいらっしゃいって誘われて。僕は映画が好きだったので、軽い気持ちで見に行ったんですけど、そこで初めてまともに落語を聞いてカルチャーショックを受けた。一人で何役もやって、監督や、新作だったら脚本も自分自身。なんて斬新な芸能なんだって」
もともとオタク気質という王楽は、自宅の音源や映像、本を見まくり、聞きまくり、そして寄席や落語会にも通いまくり、落語家になることを決意する。
王楽「落語家を毛嫌いしてましたから言いにくかったんですけど、意を決して父のところに行って落語家になりたいと。すると父は“分かった。お前の好きな師匠のところに行きなさい”と言ってくれたので、父の師匠の五代目円楽に弟子入りしました。そのため、父とは親子でありながら、兄弟の関係になりました(笑)」
サラブレッドから暴れ馬まで、3人の経歴を聞いただけでも、個性豊かなメンバーだと分かる。ここに、笑点の司会を務める落語界の奇才・春風亭昇太を師匠に持つ春風亭昇々、上方落語協会きってのイケメンと評判で、ドラマやバラエティーでも活躍する桂あおばが加わる。
新田「5人ともまったく個性が違うのがいいんです。今回のCDには全員でやった曲が2つ。あとは一人ずつが古典落語を題材にしたものと、オリジナルの作品を各1曲ずつの計12曲が収録されています。それがそれぞれにぴったり合っていて、作品として面白いものに仕上がっている。音楽と一緒で落語も演っている人の人柄や人間性がそこに出るから、同じ噺を違う人がやったらまったく違うものになるし、すごい無限の世界だと思うんです。それがこのバラバラな個性を持つ5人がやるから、全部独創的な作品になっていて、とっても面白い」
王楽「音楽がついただけで、すごく聞きやすくスピード感が出るから、落語を聞いた事がない若い人にも、すんなり入っていくんじゃないかと思いますよね」
市弥「若い人たちって、忙しいじゃないですか。仕事があって、遊びたいし、飲みたいし。その中でなかなか落語っていうカードは選ばないと思うけど、音楽と融合させて、普段の落語より短めにしているので、忙しくても耳に届きやすいと思う。それがすごい面白いし、落語へのとっかかりにはいいツールだと思います」
鯉斗「アルフィーの高見沢さんとかも詞を書いてくれているんですよね」
新田「1曲目の『長屋の花見〜大家とイカレタバンドマン〜』ね。アルフィーは、坂崎幸之助が落語ファンで有名だけど、高見沢も毎晩寝る時は落語を聞いているっていうぐらい大好きなんだよね。ツアーの最中だったけど、古典落語の『長屋の花見』の脚色をお願いしたら引き受けてくれて。これは5人全員でやっているけど、まずは落語を撮ってから、それを作曲家に渡して、曲をつけていく。普通のレコーディングとは真逆だよね。エビフライ方式っていうんだけど、あとに音をつけるのはすごく大変で、作編曲家はめちゃめちゃ苦しんだ。壮大な実験でしたね」
王楽「自分たちも音楽がついたものを後から聞いて“こうなるんだ…”って、ちょっと感動しましたよね」
鯉斗「カラオケボックスで歌ったら斬新だよね」
王楽「斬新だね(笑)」
市弥「みんながそれぞれの師匠の落語を聞いた時に“すごい!この人の弟子になりたい”と思ったように、落語に触れたことがないけど、触れたら好きになる人って絶対いると思うから、カラオケで歌ってみるのもありかも!」
新田「そう、とにかく若い人に届かないと。そのために、このイケメンを集めたんだし、この世代が次の落語界を作っていく絶好のチャンスがきていると思うから、ぜひ頑張ってほしいよね」
王楽「やっぱり目標は大きく紅白出場ですかね」
市弥・鯉斗「ですね(笑)!」
(本紙・水野陽子)
各々が演じる有名な古典落語をベースに脚色した5作品とオリジナル5作品、そしてメンバー全員で演じる2作品、計12作品を収録。
DISC 1
1.「長屋の花見〜大家とイカレタバンドマン〜」全員
2.「寿限無〜キラキラ寿限無〜」柳亭市弥
3.「恋してコチコチ」三遊亭王楽
4.「子ほめ〜わがまま赤ちゃん〜」桂あおば
5.「最終試験」春風亭昇々
6.「成り上がり〜前座編〜」瀧川鯉斗
7.「死神〜杉田玄白物語〜」全員
DISC 2
1.「元犬〜元ブス〜」三遊亭王楽
2.「湯屋番」柳亭市弥
3.「へっつい幽霊〜人間ちゅうもんは〜」春風亭昇々
4.「二十四孝〜月の石〜」瀧川鯉斗
5.「おしり」桂あおば
【価格】2枚組CD 3500円(税込)
【発売元】ナラド エンタテインメント