【インタビュー】椎名桔平、最新ドラマで日本経済の“必要悪”に!?
国内大手メーカーが巨額の「不適切会計」を公表。さまざまな疑惑が持ち上がるその裏には、日本経済界で暗躍する一人の男の姿があった—。6月から放送の『連続ドラマW 不発弾〜ブラックマネーを操る男〜』で、主人公の金融コンサルタント・古賀遼を演じる椎名桔平を直撃!
「僕は人間ドラマが好きなので、まず本作の人間ドラマの部分に引かれましたね。」と語る椎名桔平。大手電機メーカーによる巨額の粉飾決済という題材に鋭く切り込みながら、椎名演じるミステリアスな主人公・古賀の戦いと、彼を取り巻く人間模様を描く血の通った人間ドラマが見ごたえ満点。
「いわゆる“企業モノ”ではありますが人物の部分だけでも深いドラマが出来上がるような力強さを感じた作品でした。もちろん企業モノとしても現代の経済をリアルに見つめた一級の面白さがありますし、サスペンスとしても驚きのクライマックスまで目が離せない。僕が演じる主人公についても、これまであまり頂いたことの無い役どころでね。わりとエリート役が多いんですが(笑)、古賀は恵まれない環境から成長していく人物。それが新鮮でしたし、自分が共感できる人物像でもありました。男として、こういう男がいたら応援してあげたいというか、エールを送ってあげたいというような人物。これだけ理由があれば演じたいと思うのに十分ですよね(笑)」
ときに経済界のトップすら操る、一見“悪”とも思える男だが…。
「僕は悪役もよく頂くんですけど、悪人といわれるキャラクターであっても、どこに共感できるかを探しながら役にアプローチしていきます。ただ今回演じる古賀は、悪の種類が少し違うというか。あってはならない社会の敵としての悪と、資本主義社会の中の必要悪では違いがあるし、何より古賀の場合は、望んで働いてきたというより世間の波に巻き込まれてああいう人間になっていったところがあると思います。それでも彼は若いころに抱いた“この町を出て妹を救うんだ”という強い意志から始まった強い精神性を変わることなく持ち続けている。だから、どんなにお金を稼いでも欲にとらわれることもなく、困った人がいたらサポートしたりね。魅力的な人物だと思います。私が演じて素敵じゃなかったら困りますね(笑)」
原作は『震える牛』などドラマ化された作品も数多い相場英雄の経済サスペンス。
「基本的には経済界を舞台にした社会派小説ととらえて原作を読ませていただきました。確かに、日本の経済の裏側や経済がどう動いているのかという側面をすごくリアルに感じることができて本当に面白かった。僕のような仕事だと経済の動きにも鈍感になりがちなので、勉強させてもらったこともたくさんありましたね。ただ、エンターテインメントとして見たとき、人間関係のドラマにすごく引かれたんです。さまざまな立場にいる人、そこから外れた人、それぞれに深いドラマがある。彼らの姿を見ながら人間のたくましさ、力強さというのはどこから来るのだろう、ということも考えさせられました。幼いころに父を亡くし、母が豹変してからは厳しい家庭環境の中で妹を守ろうと必死で生きてきた、古賀の生きざまもつぶさに描かれていました。これは脚本にも原作にも書かれてはいないのですが、古賀は父性にあこがれ続けている男なのではないかと思うんです。古くから知り合いの東田や元上司の中野と長きにわたって信頼関係を保っていたということは、彼らに父の面影を感じていたのではないかな、と。そんなことも思いながら古賀を演じています」
そんな椎名のアプローチが、冷徹なフィクサーの顔の下に古賀の人間らしさをにじませ、一層魅力的なキャラクターにしている。
「古賀は僕自身とは違うところだらけですけど、共感できないことは何もありません。どの役に対しても共感しようと試行錯誤しますが、このように共感できないところが無い役に出会うことは、とても幸せなことだと思います」
しかも椎名は経営学部出身。経済用語もお手の物?
「そこが唯一、共感できない部分ですね(笑)。確かに難しいんです。分からなくてもドラマ自体は楽しめるんですが、演じる側としては一応、どんな仕組みなのか分かったうえで演じないと、何行ものセリフを言うときにスラスラ行かない。そこでつっかえていたら、経済界でこれほどのポジションに付いているという説得力になりませんから」
古賀の怜悧さを見事な説得力で演じる一方、金に振り回されない一面がダークヒーロー的な魅力につながっている。
「あそこまでの力を持ちながら、本人はその力でどんどん金を儲けようということもない。ではなぜ古賀はお金を稼ぐのか。それは経済学や経営学的にも興味深いところだと思いました。自分にとってお金はどれほど重要なのか。人生で必要なお金はどれくらいか。それ以上、お墓の中まで持っていけないお金を欲しがるのはどういうことなのか…など、いろいろなことを考えました。古賀の場合、きっとお金を稼ぐことが目的なのではなく、恩のある人を助けようとしたことがああいうビジネスになったというだけなんでしょうね」
椎名にも、俳優の道を切り開く力を与えてくれた先輩たちがいる。
「俳優として成長させてくれた人は本当に数多くいますね。道を切り開くきっかけを与えてくれた人という意味では、26歳の時にオーディションで入った前の事務所の社長さんだとか、いろいろ役を頂けるきっかけとなった『ヌードの夜』の石井隆監督もそのお一人です。もちろん他にも感謝している人はたくさんいますよ(笑)。たくさん叱られて怒られて成長してきましたから。僕なんて昭和育ちで体育会系の人間だから、厳しい現場も当たり前でしたしね。でもやっぱり、厳しさの裏には愛情があるんです。その時はなにくそ、と思っても後から先輩や監督の思いに気がついてありがたいなと思う。今はああいう厳しさはなくなりましたけど、あの時代、あれは“必要悪”だったのかもしれません(笑)」
(本紙・秋吉布由子)
WOWOWプライムにて、6月10日(日)スタート 毎週日曜22時より放送(全6話・第1話無料放送)
原作:相場英雄『不発弾』(新潮文庫刊)/監督:星野和成/脚本:田中眞一/出演:椎名桔平、黒木メイサ、宅麻伸、原田知世、奥田瑛二ほか
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