『虚談』ああ、取り返しがつかない。常識を覆す、現実と虚構をめぐる謎(ミステリー)
『虚談』
なんともぞっとする一冊。それはどこからくるものなのか。恐怖というほど明確ではなく、嫌悪というほど強い感情ではなく、しいて言うなら“違和感”なのか…。全9篇からなる連作集で、どの話にも共通しているのが“それは事実なのか?”ということ。小説だから事実ではないのだけれど、その話自体が、読み進めていくうちに横道に逸れ、出口を見失い、迷宮の中へ。読後は何とも言えない曖昧さと、口の中がざらつくような、言いようのない“違和感”を覚える。
「クラス」というタイトルの作品は、デザイン学校時代の年上のクラスメイトとの10年以上ぶりの再会から始まる。その同輩、御木さんが語りだしたのは、死んだ妹の話。13歳の時に不慮の事故で死んだ妹が、老婆になった姿で、自分の目の前に現れたというのだ。怖くなった御木さんは、長い間墓参りをしていなかったから、淋しかったのかと思い、命日に帰省したという。しかし、そこにお墓はなく…という話だったのだが、聞いている“僕”の記憶と彼の話には決定的な食い違いがあった。
その話の内容もぞっとするものなら、僕の知っている事実もまた、恐ろしい。しかし、さらに続く事実のようなものにも恐怖は潜んでいる。ただしそれが事実であれば…。現実と虚構のはざまで戸惑う自分がいる。
【著者】京極夏彦【定価】本体1600円(税別)【発行】KADOKAWA