企業と大学で「アート」な人材を育てる【鈴木寛の「2020年への篤行録」第57回】
ビズリーチが5月下旬に興味深い調査結果を発表していました。題して、『2019 年卒業予定の学生が選ぶ「キャリアの参考になったインターンシップ」ランキング』。同社のサイトを利用していた2019年卒業予定の人たち845人にアンケート調査をしたもので、9割がインターンシップの経験が「ある」と回答したそうです。
印象的だったのは、インターンシップ経験者の約半数は「5社以上」のインターンシップに参加したと答えていたことです。大学生が企業の現場で働きながら、広い視野と実践的な職業感覚を身につける場として、インターンシップは90年代後半から広がってきましたが、いまや当たり前の光景になりました。
「参考になった」企業のランキングでは、野村證券が1位。調査によると、学生たちからは「実際の業務内容に近い課題が与えられ、職業の本質を少し理解できた」「時間をかけて提言を一人で作り上げるという作業で仕事を体験できた」といった感想が寄せられたそうです。学生たちの実践志向を反映しています。
少子化に伴う人材獲得競争で、企業側もプログラムの充実に必死です。社会に出て行く学生にとっても、送り出す大学にとっても、キャンパスだけでは学生が学べないスキルや知識を大いに習得しやすくなることは有益です。まだ企業の現場でインターンシップが少なかった時代から、プロジェクト学習(PBL)に力を入れて、地域や企業が抱える本物の問題解決に、学生たちが試行錯誤するように指導してきた私としても、この流れ自体は歓迎しています。
ただ、インターンシップの多くは一過性の「イベント」です。私は、さらに産学連携を深めて、PBLと融合させ、学生たちが先輩から後輩へと引き継ぎもしながら数年単位の本格的な長期プロジェクトをやってみても面白いのではないかとも思います。
工業型社会の人材育成は、産学共に決まった仕事をチームで卒なくこなせるようにすることが主眼でした。しかし、情報化とグローバル化が著しい21世紀は、人種、国籍、性別、年齢を問わず、さまざまな仲間と仕事をし、前例のない難題に向き合わなければなりません。OECDも提言しているように、「主体性」「協働性」「多様性」を兼ね備えた人材が求められます。いわば、クリエイティブで、アートな思考のある人材です。
2030年代に中核となる「アート」型人材をどう育てていくか。大学も企業も新しい発想が求められています。
(文部科学大臣補佐官、東大・慶応大教授)
鈴木寛
1964年生まれ。東京大学法学部卒業後、1986年通商産業省に入省。
山口県庁出向中に吉田松陰の松下村塾を何度も通い、人材育成の重要性に目覚め、「すずかん」の名で親しまれた通産省在任中から大学生などを集めた私塾「すずかんゼミ」を主宰した。省内きってのIT政策通であったが、「IT充実」予算案が旧来型の公共事業予算にすり替えられるなど、官僚の限界を痛感。霞が関から大学教員に転身。慶應義塾大助教授時代は、徹夜で学生たちの相談に乗るなど熱血ぶりを発揮。現在の日本を支えるIT業界の実業家や社会起業家などを多数輩出する。
2012年4月、自身の原点である「人づくり」「社会づくり」にいっそう邁進するべく、一般社団法人社会創発塾を設立。社会起業家の育成に力を入れながら、2014年2月より、東京大学公共政策大学院教授、慶應義塾大学政策メディア研究科兼総合政策学部教授に同時就任、日本初の私立・国立大学のクロスアポイントメント。若い世代とともに、世代横断的な視野でより良い社会づくりを目指している。10月より文部科学省参与、2015年2月文部科学大臣補佐官を務める。また、大阪大学招聘教授(医学部・工学部)、中央大学客員教授、電通大学客員教授、福井大学客員教授、和歌山大学客員教授、日本サッカー協会理事、NPO法人日本教育再興連盟代表理事、独立行政法人日本スポーツ振興センター顧問、JASRAC理事などを務める。
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