【江戸瓦版的落語案内】御神酒徳利(おみきどっくり)
落語の中には、粗忽、ぼんやり、知ったかぶりなどどうしようもないけど、魅力的な人物が多数登場。そんなバカバカしくも、粋でいなせな落語の世界へご案内。「ネタあらすじ編」では、有名な古典落語のあらすじを紹介。文中、現代では使わない言葉や単語がある場合は、用語の解説も。
馬喰町の旅籠屋、刈豆屋吉左右衛門は、師走の大掃除で大忙し。通いの番頭・善六は、台所でご先祖様が徳川家より頂いた家宝の葵の御紋入り御神酒徳利が放置されているのを見つけた。大切なものなので、とりあえず水瓶の中に沈めておくことに。
掃除をしているうちに、そんな事はすっかり忘れてしまった善六、大事な御神酒徳利がなくなったと店中大騒ぎになっても思い出さない。家に帰ってようやく思い出したが、今さら自分の仕業だとは言い出せない。女房に相談すると、「ソロバン占いとかなんとか言って、ソロバンをはじきながら易で見つけたふりをすればいい」と入れ知恵。その通りやったら、水瓶の底から御神酒徳利が出てきたので、店主は大喜び。この日たまたま宿泊していた大阪の鴻池吉左衛門の番頭がそれを聞きつけ善六に、一緒に大阪に来てほしいと頼み込む。なんでも鴻池の娘が原因不明の難病で床についている。ぜひ善六の易で占ってほしいと言う。断りたい善六だが、たんまりと礼金がもらえると聞き、女房は「寿命は神のみぞ知る事で、易ではなんともできないとかなんとか言えばいい」と善六を送り出す。途中、神奈川宿・新羽屋源兵衛という旅籠に泊まろうとすると、何やら取り込み中の様子。聞けば宿泊中の薩州藩士の大金が入った巾着が盗まれたとか。その犯人を善六の易で見つけてほしいと言う。
困った善六は「静かに易を立てるので、一晩別室で一人にしてくれ」と夜逃げの準備。夜も更け、逃げようとした時に、善六の部屋に女中がやって来た。「父親が病気にかかり、給料の前借りを頼んだが断られたのでついつい客の金を盗んでしまった。金は庭の稲荷の社に隠した」と泣き出した。これを聞いた善六、早速宿の女将を呼び「金は庭の稲荷にあろう。長い間放置され荒れ放題になっていた祟りである。また、可愛そうな女中に金と暇を与え、実家に帰せとお稲荷様が申しておる」と告げ、一件落着。
しかし大阪に着くと、さすがにお手上げ。苦しい時の神頼みで水垢離をし、満願の日、神奈川宿の新羽屋の稲荷が夢に現れ稲荷の修復の礼を言い、褒美として娘の「治療法」を教えてくれた。目が覚めて、その通りにすると娘の病気はたちまち全快。礼金で馬喰町に旅籠を持ち、そこがたいそう繁盛したという。ソロバンだけに、生活が桁違いに良くなったという話。