宮藤官九郎×三宅弘城の『ロミオとジュリエット』はシェイクスピア観を揺るがす作品になるか
この秋、みんなのシェイクスピア観を大きく揺さぶる舞台が上演される。それはM&Oplaysプロデュースの『ロミオとジュリエット』。演出を務める宮藤官九郎とロミオを演じる三宅弘城に話を聞いた。
この『ロミオとジュリエット』は日本人の
シェイクスピア観を揺るがす作品になる!?
プレス向けのリリースには「三宅弘城がロミオを演じる」ということが目立つように書かれている。これが大きなキモとなる作品のように思えるのだが…。
三宅「それは僕がいないところで決まっていたので…(笑)。僕は分からないんですけど(笑)」
ロミオ役での出演と聞いてどう思った?
三宅「正直なところ、だまされているんだと思いました(笑)。そんなはずはない。稽古場に行ったら別の役がふられているんじゃないかというくらい」
宮藤さんは三宅さんがロミオ役と聞いた時は?
宮藤「面白いなと思いました。もともとロミオとジュリエットという作品に対して拒否反応があったんですが、その理由は自分でも分からなかったんです。でも今回の作品のお話をいただいて、ロミオ役を最初からカッコいい人がやっているからなんじゃないかと思いました(笑)。芝居の中でカッコ良くなるのはいいんですけど、チラシの段階でカッコいい人が演じるのは違うなって。だからあんまり好きじゃなかったんですね」
三宅「ああ」
宮藤「これまでの作品はロミオとジュリエットのバランスも良すぎると思うんです。チラシを見ると“別にこの2人、ここでくっつかなくても誰かとくっつくだろうな”って。それが三宅さんだと、ものすごい悲壮感が出る(笑)。 “ジュリエットしかいないだろうな、この人”っていう感じになるかなと思うんです(笑)」
今の話を聞いて?
宮藤「三宅さんには会うたびに言ってますけど(笑)」
三宅「ずっと言われ続けていますから。週刊誌のコラムにも書かれましたし。お客様は“なんであなたがロミオなの?”って思う作品になるって」
宮藤「ロミオ以外の登場人物全員がそう思っているロミオとジュリエットにすれば面白いと思ったんです。“なんで俺じゃなくてロミオなんだ”って。そうするうちに最後にやっぱりこの人じゃないと駄目だったんだなと分かるというのが芝居としてはいいんじゃないかと思うんです」
三宅「ああ」
シェイクスピア作品自体にはどんな印象を?
宮藤「マクベスもやりましたし、他の作品も見ると面白いなとは思うんですが、なぜかロミオとジュリエットだけは映画版を見ても、“何やってんだろうな”ってちょっと思ってたんです(笑)。ディカプリオのを見ても」
当たり前だろうと。
宮藤「ロミオってずっと誰かのことが好きで、冒頭から悩んでいる役じゃないですか。最初は違う相手なんですけど、ジュリエットに会ったら今度はジュリエットのことで悩むという、もう超恋愛体質。そこも三宅さんぽい(笑)」
三宅「(笑)」
恋愛体質なんですか?
三宅「僕自身はそう意識したことはあまりないですよ。結果的に人に言われるからそうなのかなって思うだけなんですけど。まあ、他の人よりはそういう…恋愛に陥りやすいタイプなのかなとは思いますけど(笑)」
宮藤「けっこうそう思って、三宅さんの声を乗せて台本を読むとすごくしっくりくるんです」
ファンも試してみると面白い。
宮藤「 “あの人には僕の恋の矢は刺さらなかった”といった台詞がありますけど、カッコいい人が言ったら嘘にしか聞こえないでしょ(笑)。客席にいるお客さんにぐっさぐさ刺さってるじゃん、って。でも三宅さんの矢は刺さらないだろうなって(笑)。最後に1本だけぐっと刺さればいいなって感じです。そういう貴重な1本が“私にしか刺さらなかった”という感じのよさってあるじゃないですか。佐藤健君の矢なんて一言一言バンバン刺さるでしょ、多分」
そんな人と比べられても…。
三宅「まあ歴代のロミオはみんなそういう人たちが演じていますから。藤原竜也さんもそうだし、城田優さんとかもそう。だいたいはなから僕がロミオをやるなんて考えていないですよね、あの方たちも」
そんなこともないと思いますけど。
宮藤「いや、それを2時間かけてそういうふうに見せるという趣向ですよね」
趣向…。三宅さんの持つロミオ像って?
三宅「単純にいい男がやるものだとは思っていました。台本を読んだだけでは別に誰がやってもいいとは思うんですが、やっぱり人に見せる作品となると、多分美しい者同士があーだこーだやってるほうが絵にはなるんだろうなって思います。でも逆に僕みたいな者がやったほうが、リアリティーが出るかな、とは思いました。周りが、“なんで…この人なの?”って思うことで内容がダイレクトに伝わるんじゃないかという気がするんですけどね」
2人とももともと小劇場で活躍していた。そのころからシェイクスピアとの距離感ってどんな感じ?
宮藤「三宅さんはシェイクスピアの舞台って出たことあります?」
三宅「ないです。演劇の勉強をしていたわけでもないですし、そういう王道じゃない作品を上演する劇団を選んでしまったので、本当に僕もシェイクスピアにはあまり興味は持たなかったですね」
とはいえ、1回も出演していないというのも意外。
三宅「どうなんでしょう。やっぱりまだそういう気持ちが体からにじみ出ているんですかね」
宮藤「なんにしろシェイクスピアは蜷川幸雄さんがやるものという感じがしていたんです。シェイクスピアというよりも蜷川さんのものという感じがなんとなくあって、自分たちがやる作品というイメージはなかったのでなかなか見にも行かないですよね。見たことありました? シェイクスピアをストレートにやっている舞台って?」
三宅「…ない。ないですね」
宮藤「僕はグローブ座で上演されていた『子供のためのシェイクスピアシリーズ』を演目は忘れちゃったんですが見て “なんだ分からなくないじゃん”と思った記憶はあるんです。そして新感線で『メタルマクベス』をやることになった時にマクベスを見ました。でも、その時でもまだ“まんまやるものか、これ?”とは少し思っていました。その後、東京乾電池さんがやっていた『夏の世の夢』とか大人計画の平岩紙さんが駅前劇場で『十二夜』に出ていたのを見た時に、“真っ正直にやるというのも面白いな”と思ったんです。それに今回は台本を書き換えたくないというのは、ちょうどいま『メタルマクベス』とかぶっているということもあるんです。2つしか知らないのに、すごくシェイクスピアをやる人みたいになっている(笑)。まさか同時にシェイクスピアをやることになるとは思っていなかったんで(笑)。あっちはもういじり倒しているので、こっちはいじらないというのが差別化という意味でもいいかなと思いました。さっき言ったみたいな、“どうしてこいつがロミオなんだ?”みたいなこととか、ジュリエットが完全に盲目になっている感じとかを台詞を変えずにやれたらすごく面白いなって。それでキャスティングもロミオの友人のベンヴォーリオも異常に背が高くてかっこいい人がいいなと思って小柳友さんにお願いしました。それって見た目の面白さというか、なんでベンヴォーリオはロミオの話を真面目に聞くんだろう、みたいな感じを台本を変えずにやれたら面白いなって思ったんです」
シェイクスピアはいろいろなカンパニーで上演されるが、どこまで崩していいもの?
宮藤「もうご本人は亡くなってますし、遺族も特に何も言ってこないですよね。だから翻訳家の方くらいじゃないですか? でも松岡(和子)さんもすごくいい人なんで大丈夫だと思うんですよ(笑)。この前も“あなた、まんまやるって言ってるけど、どうせ書き換えるんでしょ?”って言われましたもん。“いやいや絶対まんまやりますから”って(笑)」
メタルマクベスがかなりいじっていたから…。
宮藤「この間も松岡さんにすごくほめられました。“変えているけど、ちゃんとマクベスであるべきところは残っている”みたいな感じでいいほうに解釈してくれていたので、“ああいい人だな”って。もともとのマクベスはゲロなんて吐かないですから(笑)」
ロミオとジュリエットのような命を懸けてまでの恋愛ってどう思う?
三宅「あそこまではできないですけどね、もちろん。だからこそドラマになるんでしょうけど」
宮藤「心中ものってジャンルありますもんね、日本の芝居の中にも」
三宅「ピンとはこないですよね、あんまり。心中するほどの恋はしたことないですし。あとは、作品だと思って見ているからそんなに…」
宮藤「ロミオって17歳で確か働いてないはず。働いているという責任感がないから心中まで行くけど、自分だったら“決まっている仕事がなくなるまでは迷惑がかかるからやめておこうかな”って思っちゃう。“来年まではちょっと無理だな”とか(笑)。三宅さんはいつからなら心中できるの?(笑) 決まっているナイロン100℃の公演の先だったらできる?」
三宅「まだ決まってないみたいだから…(笑)」
宮藤「俺もウーマンリブが終わるくらいまではダメかな(笑)」
まっすぐ好きになる。盲目的な恋愛については?
三宅「僕はまっすぐ好きになるタイプですね」
宮藤「僕はないですね。でも僕は男子校で、周りに女子がいないというところからスタートしたので、そういう意味ではロミオには似ている部分はあるのかな。男子校って初めて話しかけてくれた女の子を好きになっちゃったりするんですよ(笑)」
三宅「僕も男子校だったんですよ。だから常に探しているみたいなところはありますよね」
宮藤「でも探しているだけですよ。何もしないんですけど」
三宅「しようと思ってもできないし。そこで悶々としているんですよ、いつも。でもその一方でモテる奴もいるんですよ」
作品的には最初、ロミオ役の三宅さんが出てきて会場に笑いが起こるけど、2時間かけて終わるころには“ああ、なるほど”と納得するような作品という感じ?
宮藤「それか、今までのロミオのイメージが消えるくらいのものにはしたいと思っています。“ロミオって言ったら三宅弘城しかいない”って感じ(笑)。芝居が終わって帰るころには、“ロミオって言ったらああいう形だよね、あの人だよね”と思わせて返したい。歴代のロミオがいかに…リア充だったかということを見せたいですね(笑)」
みんなのロミジュリ観を変えちゃう?
宮藤「同じセリフを言っているのに三宅さんが言うだけでこんなに違って聞こえるんだ、違う意味になるんだということですね。それは森川さんのジュリエットも一緒。そういうところを狙いたいので、セリフはなるべくいじりたくないと思っています」
森川葵さんとは映画『TOO YOUNG TO DIE! 若くして死ぬ』で一緒になった。
宮藤「その前に『ごめんね青春!』というドラマでご一緒しました。よく考えたらそのドラマもロミオとジュリエットみたいな作品でした。彼女は一生懸命やってくれそうな印象があるので、今回ジュリエット役が彼女で良かったと思っています。『ごめんね青春!』の森川さんの役は巨乳の恋愛体質という設定だったので胸の大きい子を探したんですよ。それでオーディションをしたんですけど、森川さんの芝居がすごく良くて(笑)。それでスタッフの方に“宮藤さんどっち取ります? おっぱい取ります? 演技取ります?”って言われて“演技を取ります”と言ったんです(笑)。これ、演技が良かったという“褒め”のつもりで話してるんですよ。森川さんの前では絶対言わない(笑)。今は三宅さんしかいないから言っても大丈夫かなって(笑)。とにかくオーディションの時の読み合わせがすごく良かったんです」
三宅さんは森川さんの印象は?
三宅「その映画とドラマは拝見しているんですけど、会うのは今日が初めてなんです。これから会うのがさらに楽しみになりました」
(本紙・本吉英人)
【日時】11月20日(火)〜12月16日(日)
【会場】本多劇場(下北沢)※地方公演あり
【料金】全席指定 前売り・当日共7500円/U-25チケット3500円
【チケット発売日】9月8日
【問い合わせ】M&Oplays(TEL:03-6427-9486=平日11〜18時 [HP] http://mo-plays.com/rom-jul/ )
【作】W・シェイクスピア
【翻訳】松岡和子
【演出】宮藤官九郎
【出演】三宅弘城、森川葵、勝地涼、皆川猿時、小柳友、阿部力、今野浩喜、よーかいくん、篠原悠伸、安藤玉恵、池津祥子、大堀こういち、田口トモロヲ