次に世間を騒がす“掘り出し物映画”はコレだ! 『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』
タイ発、アジアで大旋風を巻き起こした第一級のクライム・エンターテインメント『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』がついに日本上陸。一人の天才少女をリーダーに、高校生の犯罪チームが頭脳と度胸だけを武器に世界に挑む!
「最初にプロデューサーと話し合ったことは、爆弾も銃も使わないけれどアクション映画のような雰囲気を出そう、ということでした。実際それはとても難しかったんですけどね(笑)」
高校生たちのカンニング、という題材を、ハリウッド映画のサスペンス大作に劣らぬスリルと興奮で描いたその手腕に本国タイはもちろんアジアでも称賛相次ぐナタウット・プーンピリヤ監督。アジア各国で深刻な社会問題となっているし烈な受験戦争を背景に、カンニングをスタイリッシュ、かつスリリングなクライムサスペンスとして描いた本作は世界16の国と地域でサプライズ大ヒットを記録。
天才的な頭脳を持ちながら裕福とはいえない父子家庭で育った女子高生リンは進学校に特待奨学生として転入を果たす。ある日、テストの最中にクラスメートのグレースを“ある方法”で救ったことを機に、グレースとそのボーイフレンドのパットから“カンニングビジネス”の話を持ち掛けられる。天才的なアイデアで、あるカンニング方法を編み出したリンたち。しかし生真面目な苦学生バンクはそれをよく思わず…。学生のカンニングという日常の題材をここまで緊迫感を持って描くことができたポイントとは。
「最初に、自分の学生時代の思い出を振り返ってみたんです。例えば試験を受けるときの緊張感だったりカンニングをしたときの興奮だったり。それを現実的な描写に取り入れ、撮影テクニックや編集、音楽によって緊張感やスリリングな見せ方をしていったんです」
監督にもカンニング経験が?
「ありますよ(笑)。実はタイの学生にとってカンニングはそれほど特別なことではなく、よくあることなんです。それこそ、楽しむためにゲーム感覚でカンニングする人もいたりしましたね。本作は、中国で実際に起きた、時差を使った集団不正入試事件のニュースを目にして、それにインスピレーションを得てプロットを思い付いたんです。そこから、自分たちが見てみたいキャラクターを生み出し、そこに物語を組み立てていきました。カンニングについてもいろいろ調べたんですけどいろいろな方法があるものですね(笑)。例えばベルトの裏側に書いたり、腿に書いたり、飲み物のラベルの裏に書いたり。あとはシャーペンの中にメモを入れておいて、先生が通り過ぎた瞬間に開けて見るとかね(笑)。ただ、最初に登場する消しゴムを使ったカンニングはよく世の中で使われているものですが、それ以降はオリジナルの手法で見せていかないと面白くない。自前のカンニング方法を編み出すのは大変でした(笑)」
手に汗握る緊迫のストーリーを演じ切った主要メンバーは全員若手。
「出演者のオーディションには2〜3カ月かかり、100人ほどオーディションをして最終的にこの4人に落ち着きました。リン役は実はもう一人、有名女優が候補に残っていたんですが最終的にチュティモンに決まりました。自分は有名俳優を起用することにはこだわっておらず、キャラクターに合っていて何より真剣に取り組んでくれる俳優を求めていました。まさにそういう若手俳優たちが集まってくれて幸運でした」
チュティモンはモデル出身で今回が映画初出演にして初主演。
「彼女はまず存在感が圧倒的でした。座っているだけで人の興味を引くようなルックスで、何もしなくても視線や身体だけで表現できる。身長の高さも気に入りました。普通の子とちょっと違う雰囲気を出していましたし、チームリーダーとしての素質にもあふれていましたね」
次々と降りかかる難題や思わぬハプニングを乗り越え、ついに人生を左右するような究極のミッションに挑むリンと仲間たち。クライマックスの28分間におよぶ史上最大のカンニング・シーンには、かつてない興奮と緊迫を味わえるはず。その一方、エンターテインメントの中にも若者が大人や社会に立ち向かっていく姿に、どの世代も共感せずにはいられない。
「当初はエンターテインメント性たっぷりの刺激的な映画にしたいと思っていたんですけど、調べていくうちにタイの若者の教育や格差の問題なども浮き彫りになってきて、そういうリアルも反映できたら、と思いました。若者が社会の不公平さに立ち向かっていく姿を描きつつエンターテインメント性とのバランスを出すのが非常に難しかったです」
今後のアジアを代表する才能として注目が集まる。
「いずれより広いフィールドに挑戦できれば素晴らしいとは思っています。もともとハリウッド映画を見て育ちましたしね。本作が『オーシャンズ』シリーズみたい、と言われるはとても光栄です。今回は、その興奮を自分なりのメッセージを込め描いてみました。今回の映画は、タイ映画としては少し変わったテイストなので、ぜひ味見してもらえたらうれしいですね。銃や爆弾、ハリウッド俳優の出演もありませんし、カンニングについて日本の人はタイの人ほど共感できないかもしれませんが(笑)、それなりに面白さを見出してもらえると思います。ただ本作を参考にカンニングするのはやめてくださいね(笑)」
(本紙・秋吉布由子)
監督:ナタウット・プーンピリヤ 出演:チュティモン・ジョンジャルーンスックジン他/2時間10分/マクザム、ザジフィルムズ配給/9月22日より新宿武蔵野館他にて公開 https://maxam.jp/badgenius/