神田松之丞 講談の世界へようこそ! 講談入門書を出版
今、講談が盛り上がりを見せている。その火付け役が神田松之丞。二ツ目ながら、チケットは即日完売で、最も入手困難と言われている。そんな松之丞が『神田松之丞 講談入門』を出版。講談本の決定版のような同書は、初心者には分かりやすく上級者にも読み応えがあると評判で、異例の部数を売り上げている。
「講談を好きになっていただく第一歩になればいいという気持ちです」と松之丞。難しそう、とっつきにくいと思われがちな講談を世の中に広めたいと常々語っていた中での出版だ。
「まさに、講談を広めたいという思いから作ったものですが、構想自体は10年前からありました。逆に言えば、10年前に自分が“こんな本があったらいいな”と思っていた事が原点です。自分が欲しいから作る。それがスタートだったかも知れません。講談の本は売れないから出さないといわれていた流れの中で、現在3刷、発売から1カ月で1万部を超えたということで、とてもホッとしています。数字でちゃんと実績を出せたので、これは大成功じゃないかと。この調子で3万部ぐらいまでいけば、出版業界的にも革命的な一歩じゃないですか。ワケが分からない講談の本にも関わらずですから(笑)」
ベストセラー作家以外の新刊で、1万部売れれば成功といわれている現在の出版界の現状を考えると、驚きの数字だ。講談ファン以外が読んでも楽しめるのか。
「もちろんです。というか、初心者でも楽しめるように“入門書”としました。まずは、講談を知らない方によく質問される基本的な事を、Q&A形式で分かりやすく解説しています。次に演目のあらすじと解説。歌舞伎などはあらすじの解説書や筋書きなどがあって、見る前や見た後に予習復習ができるのですが、講談にはないので、それをずっと出したいなと学生時代から思っていたんです。それが今回ようやく実現しました。しかし、講談の演目すべてとなると、4500以上になってしまうんですね。そうすると逆に情報過多になり、お客様が咀嚼できないと思うので、ここは神田松之丞という人物に絞り、私の持っているネタをすべて出させていただきました。今の時点で私が注目を浴びているので、まず松之丞のネタを知っていただくことがきっかけになればという思いから、演目をピックアップしています。ですから、私の高座を見ていただいた方は、予習復習ができますし、そこを入り口に講談の魅力を知っていただければいいかなと思っています。そういう意味でもすごく重要な本になると思っていましたし、実際すごく需要があったので、この本を出版できた事は間違っていなかったなと確信できました」
そして講談ファンにうれしい人間国宝・一龍斎貞水との対談もたっぷりと収録。
「60ページ以上ありますね。とてもいいお話を聞かせていただきました。多分、読者の方は難しい部分も多少あると思います。というのは、固有名詞が多いから。もちろんすべてに脚注をつけていますが、それがいつか分かるように私が導いていければ。だから最初は分からなくてもいいんです。ただ、分からないけど、すごく面白いエピソードだというのは伝わると思います。基本的にくだらない話なんですよ(笑)。楽屋でふざけていた話やお互い茶化しあっていた話など、すごく親近感がわくエピソードがたくさん出てきます。貞水先生の奥の奥にある記憶の一部をいただいたという感じですね。本来は公にならない話もあったかも知れない。しかし、それをみんなで共有しようという事で語ってくれたのではないかと思います。とにかくすべて面白くお喋りになる(笑)。2時間半ノンストップでしたから。その辺の先生のフリートークの力は、さすがでしたね。サービス精神が旺盛なので、お客様を喜ばせたいという気持ちで、僕を楽しませようとしてくれたんだと思います。また、写真はこの本を出版するきっかけを作ってくれたカメラマンの橘蓮二さんがすべて撮っているんですけど、対談のところに掲載されている先生の手のアップの写真がすごくいいんです。この世のものとは思えない重厚な手をしていらっしゃる。年輪を重ねた樹木みたいなゴツゴツした手。僕の手も映っているんですけど、まだ青臭い手なんですよ。そういう写真1枚からもいろいろな情報が伝わる本だと思います」
ボリューム、情報量ともに、今の講談界を知る上では十分な一冊。
「寄席演芸の著作を多くお持ちの長井(好弘)さんにも書き手として大変お世話になりましたし、版元の編集の方、そして校閲の方、みんなで作り上げた本です。そもそも講談についての資料があまりないので、何が正しいのかが分からない。ですから、僕もかなり綿密に監修しましたし、ギリギリまで校正作業を行いました。その苦労を知っているから、300ページ弱あって、2000円以下(1890円)ですから、本というのは労力のわりに利益が薄いなと(笑)。だから、みなさんの労力に報いるためにも、売れてほしかったし、実際期待されていた以上に売れて、良かったなと思っています」
この本を有効活用するなら?
「辞書のような本ですから、講談ファンには、お手元に置いていただき、確認したい事がある時など資料としてお使いいただければと思いますし、初心者の方には、講談の入り口はこの本しかありませんと言いたいです。ぜひ僕の高座に来ていただき、その時にこの本を予習復習に使ってほしい。字面を追ってもある程度は分かりますが、やはりライブには勝てません。ライブを見ると、この本で分からないところを補いたくなるし、この本を読むとライブが見たくなるという相乗効果が生まれればと思います。僕の講談のライブとこの本を二人三脚で使っていただく。そんなふうに活用いただき、もっともっと講談の楽しさを知ってほしい。この本が売れたら、次の本の構想もすでにありますので、ぜひお手元に一冊置いておいていただけたら幸いです」
(本紙・水野陽子)
【定価】本体1750円(税別)
【発行】河出書房新社
まっちゃん祭2018 day&night
【公演情報】年に一度の講談師、神田松之丞フェスティバル! 昼の部は、TBSラジオ「たまむすび」でおなじみの赤江珠緒さんをゲストに迎えてトークを展開。夜の部は、「徳川天一坊」を師匠・松鯉、愛山、阿久鯉と連続読みする。
【日時】11月4日(日)昼の部:13時〜/夜の部:17時〜
【会場】よみうりホール
【入場料】全席指定(入替制)S席3500円/A席3200円/B席2800円
※チケットの発売は10月4日(木)から