【江戸瓦版的落語案内】船徳(ふなとく)
親元を勘当された若旦那の徳兵衛。今は、柳橋の船宿の大枡の二階に居候の身。そんなある日2階の部屋から見た船頭のイナセな姿に憧れて、自分も船頭になりたいと言い出した。親方は若旦那にはそんな力仕事は無理だ止めたが、どうしてもやると言ってきかない。
そのうち勝手に船頭たちを集めて、「これからは俺の事を“徳”って呼んどくれ」と宣言し、晴れて(?)船頭の仲間入り。浅草寺の御縁日、四万六千日は、暑さの盛り。歩いて参詣するのも辛いと、客が次々にやって来て、ベテランの船頭たちは出払ってしまった。そこへ来たのが、なじみの客。連れを伴い、浅草の大桟橋まで頼みたいという。
しかし、船頭が1人もいないと船宿の女房が丁重に断っていると、客が柱に寄りかかり居眠りをしていた徳兵衛に目を付けた。「なんだ、一人若い衆がいるじゃないか」。「あれは…その…違うんでございます」と何とか断ろうとする女房を振り切り、直接声を掛けた。待ってましたと徳兵衛、大張り切り。心配する女房に「なーに、今回は大丈夫ですよ。前みたいにお客さんを川へ落としたりしませんから。行ってきまーす」「おいおい、大丈夫か」客の連れは不安げ。その予感は的中し、舟は進まず、同じところをグルグルと回っている。かと思えば、座っていられないほどの大きな揺れ。「ちょ、ちょ、船頭さん、なんだか端に寄ってくようだけど…」
ついに舟は石垣にピタッとくっついてしまった。「お客さん、すいません。そのオタクの持っているソレ、そのこうもり傘で、石垣を突いてくれますかね。いや、棹を落としちまって」。言われる通り傘で石垣を突いたはいいが、挟まったままで取れなくなってしまった。「ちょっと、船頭さん戻って下さい。傘を取りたいので」「いやー、二度とは戻れません」。その後も棹がない舟は川に流されるまま、「お客さん、向こうから舟が来たら自分でよけて下さい」「おいおい、どうやってよけるんだ」。
そんなこんなで疲労困憊の3人。ようやく目的地の大桟橋が見えてきた。あと一息と思ったが、何せ棹がない。舟は浅瀬に乗り上げてしまった。「こうなりゃ、しょうがない」と客が連れを背負い水の中を歩き、なんとか岸へたどり着いた。客は振り返り「おい、若い衆、お前は大丈夫か?」「お客さん、お上がりになりましたら、船頭を一人雇って下さい」