激動の朝鮮半島をめぐる「不都合な真実」(その2)【長島昭久のリアリズム】
9月上旬、文在寅大統領と金正恩委員長の二人による3度目の南北首脳会談が平壌で開かれ、暗礁に乗り上げている米朝交渉をなんとか動かそうと必死の努力が行われましたが、北朝鮮をめぐる非核化プロセスは依然として膠着状態に陥ったままです。
近いうちにポンペオ米国務長官が4度目の訪朝をすると伝えられていますが、これも全く予断を許しません。トランプ大統領は、「金正恩委員長に恋をした」などと軽口とも本気ともつかぬ発言を繰り返すなど、相変わらず強気の姿勢を崩していません。しかし、当初期待されていたような金委員長による国連総会出席は実現せず、代わりに乗り込んできた李容浩外相は従来通りの原則論を強調するばかりでした。
いったい何が障害となっているのでしょうか?明らかなことは、「非核化の手順」をめぐって米朝の間に根本的な食い違いがあるということです。米国側は、金委員長がシンガポールで約束したように「本気で」非核化に着手するなら、少なくとも保有している核兵器や核関連施設のリストをまず申告すべきではないかと主張しています。もっともな要求です。しかし、これに対し、北朝鮮は、シンガポールで金委員長が約束した内容は、「米朝共同声明」にはっきり書かれていますよと。すなわち、まず①「新しい米朝関係」を築き、②「安定的な平和体制」をつくり出す努力を双方が行い、しかる後に③朝鮮半島の非核化(北朝鮮の非核化でない点は要注意)を実現する、という手順で双方が合意したはずではないかというのです。李外相が国連演説で「一方的な核武装解除には応じられない」と強調したのは、米国が上記①②のプロセスを無視して、いきなり北朝鮮に非核化を求めるのは約束違反だという意味なのです。しかも、北朝鮮の側からすれば、ステップ①をめぐり誠意を示すために、すでに豊渓里の核関連施設(の一部)を破壊しており、今度は米側がそれに応える番ではないかというのです。
そして、ステップ①②をクリアするために北朝鮮が米国に執拗に迫っているのが、「朝鮮戦争の終結宣言」なのです。たしかに、北朝鮮から見れば、安心して非核化に着手するためには、もはや核保有を必要としない環境が整わねばなりません。そのためには、せめて朝鮮半島の戦争状態を終結させる宣言を行うことによって、①新たな米朝関係をつくり、②安定的な平和体制構築に向け確実な一歩を踏み出すべきではないかと。ある意味で筋が通った要求と言えなくもないですね。他方、今日の交渉停滞は、トランプ大統領の過剰なリップサービスと米朝間の曖昧な合意が招いたともいえます。次回は、焦点となりつつある「朝鮮戦争の終結宣言」が何を意味するのか、改めてそのリスクやコストについて検証したいと思います。
(衆議院議員 長島昭久)
東京21区(立川市、日野市、国立市、および多摩市・稲城市・八王子市の各一部)衆議院議員。元防衛副大臣。慶應義塾大学で修士号(憲法学)、米ジョンズ・ホプキンス大学SAISで修士号(国際関係論)取得。現在、衆議院文科委員会委員、子どもの貧困対策推進議連幹事長、日本スケート連盟副会長兼国際部長、2017年6月より日本体育協会(現在は「日本スポーツ協会」)理事