ロボットレストランの目の前に登場した対抗馬「人間レストラン」って?
新宿は歌舞伎町。その中でも最もギラついたネオンに照らされているのは、ロボットレストランだろう。どんどん煌びやかになっていくそのレストランの向かいに、ひっそり対抗馬が登場した。その名も「人間レストラン」。ネットで探してもほぼ情報が出てこない、看板も見つけづらい隠れ家レストランの中は、どんな世界が広がってるのだろうか。
「人間レストラン」の入口にある目印は、なんとも歌舞伎町らしい「18」マークだ。振り返るとロボットレストラン、目の前にはR18の看板。もう進むしかない。お店があるのは雑居ビルの4階。階段途中の階には「R18」なお店も入っている。オトナのお店を横目に階段をぐるぐる回っていると、「本当にここであっているのだろうか」と少し不安になる。が、なんとも雑な張り紙と、大槻ケンヂの本の表紙にありそうなポスターが見えてきて、「あ、ここで合ってたんだ……」と少しほっとする。RPGで敵のいるフィールドから、街に入れた時のような安堵感だ。
残念ながら店内の全体写真は撮影NG。だが、予想外に庶民的で落ち着いた店内だった。「ロボットレストラン」に対抗して、ということだったので、人間サーカスでも見られるものかと思ったが、どうやらそのような雰囲気ではない。
店内は席数30席ほどだろうか。店内は白い壁に木基調になっていて落ち着いている。目の前には向かいのビルのギラギラしたネオンが広がるが、店内からは簾越しに、机に置かれた花越しにそれを見ることになるので、なんだか違う世界から新宿を俯瞰しているような気分だ。
メニューはシンプルで、お酒の数が多く、フードは少なめ。レストランというよりはバーっぽいイメージだ。お酒のメニュー表と別に、スタッフメニューがあり、こちらがメニュー表よりインパクトがある。それぞれのスタッフの得意料理を出してもらえるメニューもあり、オススメのものと得意料理をオーダーした。出てきたのは昔お母さんが作ってくれたような手包みの餃子、お弁当に入っていた甘い味のするたまごの入ったパン、少し甘すぎるくらい生クリームの効いたパスタ。どれも「手作りの味のするメニューばかりだった。人間が作らないと、こんな味にはならないのだろう。
なぜ、人間をコンセプトにしたのか。店長である女性にお伺いした。
「ロボットレストランの目の前に店を出す、と思った時に、こんなことを考えました。これから先、ロボットやAIがなんでもやるようになっていくのだろう。人間がやり繰りする店もレアになって、ここには人間がいます、なんてマークができたりして。近未来な話だけど、新宿の歌舞伎町という街では、常にそのような華美な喧騒を感じます。VRのエンタメ施設ができたり、ロボットレストランがどんどん拡大したり。反面、朝まで輝くこの街では、びっくりするくらいたくさんの人がいて、いつも疲れていて。今後、新宿の街がどうなっていこうとも、この店は人がいる、人が作る店でいたい。そんな思いで、すべてのフードを手作りで出しています。パスタも餃子も、レンジ調理や二次加工ではなく、いちから作っています。もちろん時間はかかりますが…この店では、ゆっくりと時間を過ごしてほしいんです。近未来都市新宿の、人が作るオアシス、それが『人間レストラン』です」
歌舞伎町という特殊な街で、ひっそりと人が経営するレストラン。アニメのような世界観だが、的を得ていないわけではない。客には夜働くバーテンやホストも多いという。手作りのご飯を求めて、明け方に店に寄っていくのだそうだ。ファストで楽な牛丼より、人が作ったご飯を。「人間レストラン」は新宿の街を生き抜くソルジャーたちの確かなオアシスになり始めているようだ。
(取材と文、写真・ミクニシオリ)