二ツ目さん数珠つなぎ【第2回】 春風亭昇也「お客さんとは“一語一会”。今日しかできない落語を見せる」
昇太一門は超放任主義
「基本的に、うちの一門は放任主義です。放任主義って一見楽なんですよ。一見楽なんですがそうじゃない。むしろ大変です。怒ってくれたり指示してくれたりするほうがよっぽど楽です。放任されるという事は、自分で責任を持って、言われなくても動かなければならない。だからずっと気を張っていなきゃいけないんです。それを覚えるのが、楽屋仕事です。楽屋で気働きを叩きこまれ、相手が何をしてほしいかを判断し、自分から動く事が求められる場。これって、落語にも生きる事で、お客様の反応を見て、その日やる噺を決めるという状況判断を養うことにもつながっています。まあ、単純に言うと、毎日一緒にいる人を気持ちよくできない人が、今日初めて会った人を気持ちよくできるわけがないという理論なんですよ。だから楽屋で気働きできる人はやっぱり売れるんですね。目端がきくから。ちなみに今ブレイク中の神田松之丞はできてませんでしたけど(笑)。でも、彼は突き抜けてるから強い。稽古熱心で、ずっと稽古してたのが実ってますよね。僕は気働きはできるけど稽古嫌いだから(笑)」
師匠の言葉に込められた思いとは。
「うちの師匠が毎年忘年会の挨拶で一門に“皆さん、来年もプロでありますように”と言うんです。要はこれで飯を食うという事で、人様に迷惑をかけずにお金を稼ぐという事が最低条件だという事。僕ら弟子は何回も師匠のプロ根性を目の当たりにしているので、すごく重い言葉だなと、いつも感じています。プロはどんな状況下でもお客様を最高に楽しませて帰っていただく。以前、師匠の高座の前の演者さんの時間が押してしまって、1時間を予定していた師匠の持ち時間が30分になった事があったんです。そうしたら師匠は「ゲストもいるし、本当は3席やろうと思ったんですが…4席やります!」って(笑)。1席終わって頭を下げて、上げたら次の噺って。もうお客さんは大喜びですよ。で、4席やり切って、一番前のお客さんに「今何時?」って聞いたら「9時15分です」って。その時間がギリギリの時間だという事を、お客さんも知っていたから、最後の最後もどっかーん!とうけた。つくづく師匠のすごさを知り、弟子入りして良かったなと思いましたね」