羽生出場のロシア大会は今週末!日本大会レビューと第5戦の見どころ【フィギュアGP 2018】
日本大会(NHK杯): 紀平梨花がグランプリ初出場・初優勝の快挙
堂々のグランプリ初出場・初優勝は、日本女子で初の快挙だ。紀平梨花は、ショートプログラムで3回転半ジャンプを転倒し5位とやや出遅れたが、フリースケーティングでは見事に3回転半を2本美しく着氷し(うち1本はコンビネーション)、大混戦となった今大会の女子シングルで頂点に立った。今シーズンからシニアに本格参戦する16歳。3回転半に代表される、短い助走から跳ぶ質の高いジャンプが最大の武器になっている。しかし紀平の魅力は、ジャンプにとどまらずスピン・ステップなど他の要素も高い出来栄え点を得られるそのバランス感にある。幼少期より取り組んだ体操やバレエで培った身体のしなやかさには目を見張るものがあり、スケーティングもこの若さにしてハイレベルなものを備える。今大会で2位となった宮原知子は同門の先輩で、一足先にグランプリファイナル出場を確実なものにした。次にこのふたりの戦いを見るのがファイナルの舞台となるかどうかは、紀平の次戦であるフランス大会にかかっている。
宮原は、最終滑走となり緊張したというフリーでの逆転は惜しくもかなわなかった。大きなミスなく滑り切ったが、複数のジャンプで踏み切りエッジのアテンションと自身最大の克服要素ともいえる回転不足が顔を出した。高難度ジャンプをプログラムに取り入れる紀平とは、各要素の基礎点合計でやや差があり、それを上回るには確実な実施が前提となってくる。それでも、宮原にはそれを可能とする実力がある。プログラムをトータル・パッケージとして魅せる力は、これまでの豊富な経験や練習に裏打ちされたゆるぎないもの。同じリンクで練習する紀平にとっても、常に努力を怠らない先輩の姿は最高のお手本だ。昨シーズンは怪我から復帰してすぐに滑り込みで出場したファイナルを、今シーズンは自らの好成績でつかみ取った。日本が誇る女子のエースは、ひたすらにベストな演技を追求していく。
3位にはロシアのエリザベータ・トゥクタミシェワ。2014年世界選手権で優勝して以降はコンディションの不調が続き世界のトップ争いから離れていたが、今大会では優勝したカナダ大会に次ぐ表彰台入りを果たし、宮原とともにファイナル進出を決めた。トゥクタミシェワもまた、3回転半をプログラムに組み込む選手のひとり。挑戦の行く先を見守りたい。
三原舞依は4位。ショート、フリーとも演技をまとめ総合200点台に乗せる実力を見せたが、表彰台にはわずかに届かなかった。三原はとてもなめらかなスケーティング技術を持ち、演技中の柔らかい笑顔も魅力的な選手。スピンやステップでレベルを取りこぼさないことや、各要素の出来栄えをさらに引き上げることなど、より緻密な戦い方が必要になってくる。
男子では宇野昌磨が優勝。1戦目のカナダ大会に続いての優勝となり、グランプリ2戦における合計ポイントが出場選手全体トップでファイナル進出だ。ただ、演技内容にはやや課題を残した。ショートの4回転トウループでは回転に歯止めをかけられずに転倒。必ずしもスピードや勢いのみでは跳べないというジャンプの難しさを感じさせるミスだった。フリーではコンビネーションジャンプを全3回組み込む予定が1回のみの実施に。大きな得点源をものにできず、得点が伸び悩んだ。ここまで演技の完成度にこだわってきた宇野だが、「まずはショートとフリーと(ミスのない演技を)まとめるところから始めたい」と話す。基本に立ち返り、ファイナルでは成長を見せられるか。
2位はロシアのセルゲイ・ヴォロノフ。今シーズンのフリーは、今年夏に亡くなった元選手のデニス・テンさんが振り付けた特別なプログラムだ。ヴォロノフ自身は31歳で、選手として年々円熟味を増している。そんな彼がテンさん振付のプログラムを滑ることにより、フィギュアスケート界の歴史にかけがえのない記録と記憶が残る。今大会はダイナミックなジャンプが次々と決まっていくのが印象的だった。この調子で、今シーズンたくさんの大会でこのプログラムを見せてほしい。
山本草太は6位。ショートにもフリーにも3回転半ジャンプを組み込む構成で、復調しつつあることを存分にアピール。フリーでは全体の後半グループで演技した。ジャンプが跳べない時期に精力的に取り組んできたスピンやスケーティングの進化はめざましい。特にシットスピンは回転中も軸が全くぶれず、スケートの刃がずっと同じ位置で円を描いていた。全日本選手権に向け上々の仕上がりだ。佐藤洸彬は10位に入った。今の日本男子勢では貴重な、男らしさを前面に出したスケートが光った。今後は、最後まで集中の行き届いた演技、特にフリーの後半で崩れないことが課題となる。この国際試合で得た経験を、国内争いでも生かしていきたいところ。
ペアではフィンランド大会に続いて須崎美羽、木原龍一が出場、8位に終わった。シングル出身の両選手だからこそできるサイド・バイ・サイドの3回転ルッツや、結成から試合を重ねるごとに増す、お互いへの信頼が伝わる演技が魅力のペアだ。アイスダンスでは小松原美里、ティム・コレトが夫婦らしい息の合った演技で9位。曲調で緩急が変化するスケーティング、一音一音を捉えたリフトなど、こちらの演技も見どころが満載だ。
ロシア大会:羽生結弦は「自分超え」の演技でさらに得点を伸ばせるか
今週末には第5戦・ロシア大会が開幕する。まずはファイナル出場をかけ、そしてファイナル優勝へ向けて注目を集める羽生結弦のグランプリ2戦目だ。フィンランド大会では優勝、シニア移行からグランプリ初戦で勝てないジンクスに打ち勝った。新ルールの下でまたしても世界最高得点を記録している羽生が、より磨きのかかった「自分超え」の演技でさらに得点を伸ばせるか。現在、前人未到の4回転半ジャンプへの挑戦は封印中。目下の課題を解消し、今できる最高の演技がなされた時から、また新たな取り組みがスタートする。
男子では羽生のほか友野一希、女子では松田悠良、山下真瑚、白岩優奈(※)もそれぞれグランプリ2戦目の戦いに挑む。特に山下はカナダ大会で2位となっており、ロシア大会の順位次第ではファイナル出場が見えてくる。日本大会で躍動した同じシニア1年目の紀平に続いて好結果を残せるか。地元ロシアでおなじみの五輪女王アリーナ・ザギトワや、アメリカの実力派選手のひとり、グレイシー・ゴールドにも要注目だ。
(文・尾崎茉莉子)
※ロシア大会には当初、女子シングルで樋口新葉選手がエントリーしていましたが、右足甲の怪我の影響により欠場が発表されました。そのため、日本からは代わって白岩優奈選手が出場します。
第1戦アメリカ大会(10/20〜22):宮原知子、坂本花織、本田真凜
第2戦カナダ大会(10/27〜28):宇野昌磨、友野一希、樋口新葉、山下真瑚、松田悠良
第3戦フィンランド大会(11/3〜4):羽生結弦、田中刑事、坂本花織、本郷理華、白岩優奈
第4戦日本大会《NHK杯》(11/9〜11):宇野昌磨、佐藤洸彬、山本草太、宮原知子、三原舞依、紀平梨花
第5戦ロシア大会(11/16〜18):羽生結弦、友野一希、松田悠良、山下真瑚、白岩優奈
第6戦フランス大会(11/23〜25):田中刑事、三原舞依、本田真凜、紀平梨花
グランプリファイナル(12/7〜10):第1〜6戦を終えた段階で、各カテゴリーのポイント上位6名が出場する