【徳井健太の菩薩目線】第8回 無駄な売り込みアピールは、承認欲求の不法投棄だから止めよう

“サイコ”の異名を持つ平成ノブシコブシ・徳井健太が、世の中のあらゆる事象を生温かい目で見通す連載企画「徳井健太の菩薩目線」。第8回目は、後輩との付き合い方について梵鐘をつき鳴らす――。

 今年の秋口に、5年ぶりに舞台(吉本興業の神保町花月)に出演したの。出演者は、NSCを卒業して5年目、3年目、1年目の若手。そこに18年目の俺が特別出演するという具合。多分、吉本とすれば、中堅の俺とコラボすることで、若手に何かを学んでほしいという思惑があったんだと思う。

 結論から言うと、なかなかの地獄だったなぁ。若手と絡むのは、本当に難しい。世のアラフォー上司たちの気持ちが分かった。特に、1年目。笑っちゃうくらい失礼なの……まぁ、思い返せば、俺たちも1年目のときはそうだったのかもしれないから、尻がこそばゆいけどさ。

 一人(A男)は、いきなり俺に、「徳井さん! 売れるにはどうしたらいいっすかね!? 何が必要っすかね?」と、のたまってきた。知らないよ。ゼロ距離でいきなりタメ口で聞いてくるのもおかしいし、俺は全知全能じゃないんだし。ちなみに、マジックが得意らしくて、「見てくださいよ!」って無理やり見させられたけど、普通だった。

 もう一人(B男)は、「徳井さん、オレって、今までスベッたことないんすよ」と大放言。嘘じゃん。大ウソつきじゃん。「∞ホールのランキングはどこにいるの?」って聞いたら、「∞には出てないんすよ。参加するためのメールが届かないんですよね」と。犯罪予備軍ですよ。平気で嘘をつくようになったら、限りなく赤信号に近い黄色信号ですよ。「M-1にエントリーはしてないの?」と聞くと、「なんかM-1は違うんですよね」だって。M-1が違うんだったら、この業界、何が正解なんだよ。ちなみに、「NSC時代に目立たなかったのは、あえて力を抜いていたから」らしい。達人?

 最後の一人(C男)は、「オレはウォッカだったら、どんだけ飲んでも酔わないんです」と言い張る。で、千秋楽後の打ち上げで、試しにウォッカを飲んでもらったら、2分の1瓶で熟睡した。無理に飲ませるようなことはしてないよ。俺は、バカの巻き込み事故に遭遇すること以上に、愚かなことなんてないと思っているから。

 たしかに、芸人を目指すような若い奴なんて、相対的にポンコツが多いと思う。でも、これはないよねぇ。仮に、俺ごときに舞い上がっていたとしても、売り込み方が違うじゃない。嘘をついてでも気に入られたい、話したいのかもしれないけど、誰もハッピーにならない売り込み方は、ただの承認欲求の不法投棄。俺という敷地に、「オレ(私)って、こんな人間なんす!」って、俺からしたら不必要なもの、言うなれば廃棄物をドサっておいていくようなもんじゃん。犯罪行為だよね。



 俺たちも1年目のときは、たしかに生意気だったかもしれないけど、目上の先輩が怖かったからさ。こんな態度はできなかったよね。今の若い子たちに罪はないと思うけど、“コワさ”とか“畏怖の念”みたいな重石がどんどんなくなっていっているんだろうね。別に、「体育会系万歳!」とか「縦社会万歳!」ってわけじゃないよ。重石がなくなって、いろいろと舞い上がっちゃうって話。それで飛んでって、よく分からないところに不時着しなければいいけどね。

 どの業界にも言えると思うんだけど、若手って「あの先輩にハマれば仕事がもらえる」って思いがちだよね。はっきりって幻想。そんなことはマジでない。ハマったところで、「売れる」「(能力が)伸びる」かどうかは別問題なんだよ。自分のスキルを磨く時間をおろそかにして、ただハマろうと必死になっている若手がいたとする。良い先輩が近づいてくる? そんな奴に大事な仕事を分け与える? ましてや、俺にハマろうとしていたんだとしたら、こんな残酷物語はないよ。お前らにも選ぶ権利はあるんだから……俺じゃないだろ。せめて自分と同じ属性のニオイくらいは嗅ぎ分けようよ。

 結局、誰一人として若手とは連絡先を交換することはなかった。その後、彼らがどうなったかも知らない。……まぁ、興味ないんだけどさぁ。

◆プロフィール

とくい・けんた 1980年北海道生まれ。2000年、東京NSC5期生同期・吉村崇と平成ノブシコブシを結成。感情の起伏が少なく、理解不能な言動が多いことから“サイコ”の異名を持つが、既婚者で2児の父でもある。よしもとクリエイティブ・エージェンシー所属。

※【徳井健太の菩薩目線】は毎月10・20・30日更新です。