【インタビュー】 中村勘九郎×阿部サダヲ「いだてん」で演じるオリンピックに出る人、招く人
新しい年が始まり、今週末6日には新しい大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~』がスタートする。日本で初めてオリンピックに参加した金栗四三と日本にオリンピックを招致した田畑政治がつなぐ、1964年東京オリンピックが実現するまでの日本人の泣き笑いを刻む物語だ。金栗四三役の中村勘九郎、田畑政治を演じる阿部サダヲに聞く。
ーー大河ドラマへの主演が決まって、どんなことを思いましたか?
中村勘九郎(以下、中村):歴史ある大河ドラマの主役ですから、うれしさというよりは大丈夫かなという不安があったんですが、宮藤(官九郎)さんの脚本を読んでほっとしまして。本当に面白くて、これをどうやればちゃんと伝わるんだろうかと考えましたね。
阿部サダヲ(以下、阿部):僕は不思議な感じですね。初めて出演させていただいた大河ドラマが『元禄繚乱』(平成11年)で、勘九郎さんのお父さまの中村勘三郎さん(当時は勘九郎)が主役でした。その時に「君のところ(大人計画)の舞台、面白いんでしょ。チケット送ってよ!」って言って下さって。舞台を見に来ていただいたり、宮藤さんが歌舞伎を書いたりするきっかけになりましたもともと宮藤さんは歌舞伎顔だから名前を官九郎としたのもあったりして、ご縁を感じています。
初めてオリンピックに参加した人、日本にオリンピックを招致した人
ーー中村さんは日本で初めてオリンピックに参加した金栗四三、阿部さんは日本にオリンピックを招致した田畑政治を演じます。それぞれどんな人物なのでしょうか。
中村:熊本弁に「とつけむにゃあ」というのがあるんですけれども、金栗さんはまさにその「とつけむにゃあ」人だと思います。なんていうか、いただいた脚本を読んでいて思ったんですけれど、マラソンのこと、走ることしか考えてない。本当に「とつけむにゃあ」人なので、演じていて面白いです。それに衣装もね! 大河の主役というと、やっぱり甲冑とかじゃないですか。それなのに僕は、ユニフォームと体操着しか着ていない(笑)。
阿部:そこは、安あがりですね(笑)。
中村:大河史上一番地味かもしれません。
阿部:それ面白いね。僕が演じる田畑さんはとても頭の回転の速い方。もともと新聞社の方というのもあって、言葉で攻めていくタイプの人です。だけど常識的ではないところもあって、直談判に行っちゃうみたいなことも多いので、周りの人は田畑さんを止めるのが大変だったんじゃないかと思います。
中村:田畑さん、セリフの量がすごいですよ。1回で僕の24回分ぐらい話してるんじゃないですか?
阿部:金栗さんはマラソンだから呼吸法でね。
中村:スースーハーハ―って(笑)。
阿部:田畑さんは呼吸を忘れて喋り続ける。喋りすぎて、息切れしてしまうっていうシーンもあるんです(笑)。金栗さんも田畑さんも憎めない人です。お茶の間でドラマを見ていただく方たちにも、そう思って2人を見ていただけたらなと思います。
演じるために走り込んだ中村、日本泳法を学んだ阿部
ーー演じる役に、共感する部分はありますか?
阿部:田畑さんはせっかちらしいんです。火がついているたばこを(確認せずに)逆に吸っちゃったり、渋滞にはまって車を降りて前の車を押したなんていうエピソードもあります。僕もせっかちで、人より歩くのが早かったり、待てなかったり、コース料理が苦手だったりするので、そういうところが似ているのかなと思いますね。
中村:うーん。金栗さんはピュアなんですよね。金栗さんが東京に来てから、熊本に残していた奥さんが訪ねてきたりするんですけど「帰って」とか言うんですよ。その部分については僕は共感しませんね、僕は(奥さんを)大事にしてますから(笑)。まあ、金栗さんも奥さんを大事にはしているんです。だけど、走ることにもっと情熱を注いでいるってことなんだと思います。そこには、共感というよりも、あこがれますね。それだけ情熱をそそげたらいいなって。
ーー中村さんはマラソン、阿部さんは水泳の練習はされたと思うのですが……。
中村:マラソン選手の役をやるうえで、マラソンの走り方を基礎から習って、金栗さんの走り方も映像が残っていますので、練習しました。撮影に入る前はマラソンっていっても撮影だから、そんなに走らないだろうと思っていたんですが、大きな間違いでした。熊本でミカン畑を走るシーンがあったんですが、天敵はドローンでしたね。あんなものを開発されちゃったらどこまでも撮れるんで、どこまでもカットがかからない。とにかく走るんです。ストックホルムでも大変でしたが、映像はすごいことになっているみたいなので楽しみです。いろんなところを走れて楽しいです。
阿部:僕も楽しみにしています。アスリートみたいに、食事も変わったんですか? すごい痩せたじゃないですか? 痩せて黒くなった。
中村:変わりましたね。金栗さんは体が弱かったので、「冷水浴をやりなさい」と言われて、ずっとやるんです。そのシーンが1回に2回ぐらいあるんです。裸で。
阿部:相変わらず衣装少ないですね。
中村:締まっていない肉体を見せられないですから、体型キープが大変です。水浴びのシーンを撮ってくれるスタッフは、「お前の裸見たくないよ」って感じなんでしょうけど、毎回脱いでます。
ーー阿部さんはいかがでしたか?
阿部:選手をあきらめて監督になるので、泳ぐシーンはあまりないんですよ。オープニングの映像と途中ちょっと出てくるぐらい。日本泳法の練習は少ししました。クロールと似ているけれど、ずっと片面だけ顔をあげて泳ぐんですが、(顔を上げるのが)得意な方ばかりで練習していたら、撮影ではカメラの都合で反対側で泳ぐことになり(笑)。沈みかかりました。どっちも練習しておかなければいけなかったですね。
中村:タイトルバックで阿部さんが出てくるところ、最高です!
阿部:隅田川とかを泳いでいるらしいです。タイトルバックは、今までの大河ドラマではあまりみないようなものだと思います。人の出てきかたがすごくシュールなんです。僕も、最初何やってるか分からなかったです。ここを歩いてください、見てくださいって。
ーーさきほど、みかん畑を走ったお話がありましたが、金栗さんの故郷である熊本でのロケをしています。そのときのエピソードでおしえてもらえることがあったら……。
中村:熊本ロケでは、金栗さんの娘さんたちに、ご挨拶したんですが、畑を歩いて行ったら、お父さんが帰ってきたみたいって言ってくれました。それに、僕のふくらはぎを見て、お父さんの足に似ていると言ってもらえたこともすごくうれしかったです。
さまざまなエピソードがある2人の主人公
ーー金栗さんは自らがプレーヤーであり教育者、中村さん自身も演者であり指導する立場でもあります。金栗さんを教育者として見たとき、どんなところにすごさを感じますか?
中村:走ることが大好きでそのことしか頭にない人ではあるんですが、情熱を持って教えればおのずと生徒たちがついてきてくれるようなエピソードが書かれています。教育者としてもすごく素敵というか、一途だったんなんだなと思います。だからお年を召されてからも、金栗さんをしたって人が集まってくる。自分が演じるうえでも、そういった人を引きつけるオーラや大きさ、優しさ、情熱、一途さを出せたらと思いますね。
ーー阿部さんは、田畑さんを演じるうえで、どんなことを感じていらっしゃいますか?
田畑さんは浜松の方なんですけど、地元の方に聞いてもあまり知られていなかったんです。日本水泳の父といわれていて、田畑政治展というのがやっていたので見に行ったんですが、フジヤマのトビウオと呼ばれた古橋広之進さんの施設の一角でやっていて……頑張ろうと思いました(笑)。これから盛り上げていきたいです。
ーー金栗さんも田畑さんも、一般には知られていない人だと思いますが、さまざまなエピソードがある人たちです。感銘を受けたエピソードはありますか?
中村:嘉納治五郎先生との出会いですね。嘉納先生がいなかったら、金栗さんという人はこうはなっていなかったでしょうから、すごく嘉納先生を崇拝している。
阿部:金栗さんはメダルが取れるといわれて取れなかったり、田畑さんは招致したのに、結局は重要なポジションから外れてしまって、東京オリンピックは客席から見ている。そういう、成し遂げていない人っていうのが好きというか興味深いですし、面白いですよね。
ーー金栗さんも田畑さんも行動力の人。
中村:何かを成し遂げようとするには情熱に行動力が伴わないといけない。金栗さんの練習方法は、コーチや監督がいないなかで自分で編み出したものなので、ムチャクチャです。だけど、まず何かやる、やってみるという行動力がなければだめなんだなと思います。
阿部:ウソでしょ!?と思うくらいの行動力がないとね。周りがびっくりするくらいのことをやらないとみんなが動かないと思いますから。それでどんどんやっていっちゃうのはすごいと思います。お金のことを考えていなくて、全部後からついてくるみたいなところとか。
ーーそんな2人がいたから今の日本があるんですよね。改めて、オリンピックに尽力する人たちを演じることについて聞かせてください。
中村:金栗さんが日本で初めてオリンピックに行ったときは、アスリートを取り巻く環境は今と全然違っています。国からの支援はなく自費で参加していて本当に大変だった。史実と同じくドラマも大惨敗するんですが、そういう状況でのお金の大変さ、オリンピックにいくことのプレッシャーを演じていて感じています。ストックホルムで走った時にね、思ったんですよ、「勝ちたかったな」って。今まで部活でスポーツとかやってこなかったし、役者には勝ち負けがないので負ける悔しさというのが分からなかったんですけど、本当に悔しかった。現在のほうが選手へのサポートはありますけど、その分、プレッシャーは相当だと思います。勝っても負けても競技をしているアスリートの人たちはすごいですね。このドラマをやらせていただいて、スポーツの見方が変わりました。
阿部:東京が出来上がっていくようなシーンがあるんです。首都高とか道を作っているような。そういうのを見ているだけでワクワクします。そのワクワク感を、視聴者の方とも共有できるような気がしています。
――今週末には放送が始まります。
中村:今回の大河ドラマ、いい意味で大河ドラマじゃないみたいなんです。ちょんまげの人がいないし、何もかも違うんじゃないかなと思いますね。それでいて、歴史も入っていて、スポーツもある。
阿部:変えたいというのは……ありますかね。歴代の大河の一覧を見たんですけど、今回は変えていきたいというか。笑いというものをいっぱい持ってきたいと思っています。日曜日の夜8時台に笑ってみている大河ドラマ。宮藤(勘九郎)さんが書いているというのもあって台本を読んでいるだけでも笑えるので、お客さんも笑っていただきたい。
ーービートたけしさん演じる志ん生さんが出てきて、落語で始まって、閉じるというのも……。
阿部:宮藤さんらしいなと思いますね。勘九郎さんのところと僕がやっているところとを、落語でリンクさせるなんて面白い。すごくいいところをついているなと思います。それが会話になっていたりもして、すごいなと思います。
中村:時空も飛び越えているんですよね。明治から昭和にかけての物語を書こうとしたら、ごちゃごちゃになってしまうんじゃないかと思うんですけど、すごいですね。毎回台本を読むのが楽しみでしょうがないし、自分が出ている出てないに関係なく本当に面白いです。
阿部:最終回の「サゲ」がどうなるかを今から期待してしまします……宮藤さんにプレッシャーになっちゃいますね(笑)。
ーー最後に、いのしし年の今年の抱負を教えてください。
阿部:この田畑さんという人も猛進型で、たぶんバックできなくて前しか進めない、前しか見ていない人。田畑さんと一緒にいのししとして進んでいきたいと思います。僕は犬年なんですけど。
中村:……僕はいのしし年が苦手なんですよね。母も、弟も、妻もいのしし年なんで(笑)。負けないで頑張りたいです。(主演を阿部と)25回ぐらいで交代しますが、そのあとも金栗さんは生きているのでちょこちょこ出てきます。なので、モチベーションを下げないようにと思っています。
(TOKYO HEADLINE・酒井紫野)
1959年、五輪招致目前の東京。第十代の日本橋を通りかかった落語家の古今亭志ん生(ビートたけし)は寄席に向かっていた。志ん生がその高座で語りだしたのは、50年前の日本のオリンピック初参加にまつわる話。柔道の創始者、嘉納治五郎(役所広司)はストックホルム大会を目指して悪戦苦闘していた。出演は、中村勘九郎、阿部サダヲ、生田斗真、森山未來、役所広司 ほか。
毎週日曜、NHK総合で午後8時~、BSプレミアムで午後6時~、BS4Kで午前9時~。初回は60分の拡大放送。【番組サイト】https://www.nhk.or.jp/idaten/r/