「普通科」高校という枠組みを作り直す【鈴木寛の「2020年への篤行録」第64回】
あけましておめでとうございます。平成も残り4か月、東京オリンピック・パラリンピックまで1年半、時代の節目を感じる年明けです。そんな中、高等教育も大きく変わろうとしています。1月4日の読売新聞で、政府・自民党が高校普通科の抜本改革に乗り出し、画一的なカリキュラムを柔軟に見直し、専門性の高い学科とするという動きを報じました。
唐突に思われるかもしれませんが、私が文科省で大臣補佐官をしていた数年前の段階から、政府内で検討されてきました。特に、林芳正前大臣が座長で私が座長代理を務めた「Society5.0における人材育成に関する大臣懇談会」の報告書でも、高校生320万人の7割超が通う普通科の見直しが盛り込まれました。普通科の7割は文系。AI時代の到来を見据えて、文系と理系の分断を超えていかねばなりません。一方で、地域を支える人材の育成も重要です。
実は地域や現場レベルでは、すでに改革の試みがはじまっています。
東京都では7年前から都立高校改革が進んでいます。首都大学東京など大学と連携した高校教育の充実(高大連携)、オリンピック・パラリンピックのボランティア参画、都独自の英語教材の活用などを進め、今後は、AIやビッグデータを活用するスマートスクール構想の実現も目指しています。これらは、いうまでもなく、国際化、ICT化という社会の変化に応えるものです。
地方では、地元の空き店舗を活用し、生徒自ら運営をしたり、離島の高校に「島留学」として全国から生徒を募集したり、NPO法人等と連携して多文化共生教育を行うといったユニークな活性化策も実施されています。
改革の大きな背景としては、小学校6年、中学校3年、高校3年、そして大学の4年(医学部は6年)へという戦後にできた枠組みが、21世紀の時代の変化にあって、これまで通りの形態でいいのか、見直しを進めてきた一環です。普通科高校も「大学進学の通過点」という現実から、10代後半の貴重な学びの環境としてのポテンシャルをもっと引き出せるはずです。
文科大臣補佐官在任中、大学入試改革に力を入れたのは、高校以下の現場全てが大学受験を念頭に知識偏重、マークシート型人材量産を進めていたからで、ここを変えれば論理的思考力、創造力育成重視に全体の風景が変わっていく、という思いでした。
入試改革で「外堀」を埋めたことで現場の空気は変わりましたが、普通科改革はいよいよ「本丸」です。
(東大・慶応大教授)
鈴木寛
1964年生まれ。東京大学法学部卒業後、1986年通商産業省に入省。
山口県庁出向中に吉田松陰の松下村塾を何度も通い、人材育成の重要性に目覚め、「すずかん」の名で親しまれた通産省在任中から大学生などを集めた私塾「すずかんゼミ」を主宰した。省内きってのIT政策通であったが、「IT充実」予算案が旧来型の公共事業予算にすり替えられるなど、官僚の限界を痛感。霞が関から大学教員に転身。慶應義塾大助教授時代は、徹夜で学生たちの相談に乗るなど熱血ぶりを発揮。現在の日本を支えるIT業界の実業家や社会起業家などを多数輩出する。
2012年4月、自身の原点である「人づくり」「社会づくり」にいっそう邁進するべく、一般社団法人社会創発塾を設立。社会起業家の育成に力を入れながら、2014年2月より、東京大学公共政策大学院教授、慶應義塾大学政策メディア研究科兼総合政策学部教授に同時就任、日本初の私立・国立大学のクロスアポイントメント。若い世代とともに、世代横断的な視野でより良い社会づくりを目指している。10月より文部科学省参与、2015年2月文部科学大臣補佐官を務める。また、大阪大学招聘教授(医学部・工学部)、中央大学客員教授、電通大学客員教授、福井大学客員教授、和歌山大学客員教授、日本サッカー協会理事、NPO法人日本教育再興連盟代表理事、独立行政法人日本スポーツ振興センター顧問、JASRAC理事などを務める。
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