須藤元気×布施鋼治×赤平大が「ONE Championship」の魅力を徹底検証
アジア最大規模の格闘技団体「ONE Championship」の初めての日本大会となる「ONE:A NEW ERA -新時代-」が3月31日に東京・両国国技館で開催される。ONEにはかつてPRIDE、DREAMといった日本のメジャーイベントで活躍した青木真也が2012年から参戦。2013~2016年という長期にわたり、ONE世界ライト級王者に君臨。その後も修斗世界王者の内藤のび太、猿田洋祐がONEの世界王座に就くなど、急激に日本の格闘技ファンとの距離を縮めている。そんななか、今年1月からテレビ東京でONEの魅力を紹介する番組「格闘王誕生!ONE Championship」(木曜深夜2時5分~)がスタートした。
同番組は解説に元格闘家の須藤元気氏と格闘技メディアの重鎮的存在である布施鋼治氏、実況とナレーションに赤平大氏という布陣でONEの試合映像はもちろん、参戦選手の試合以外の貴重な映像も紹介している。都内で行われた収録の前に3人にONEの魅力について聞いた。
須藤「いろいろな多様性がONEという戦いの中で一つになっている」
古くから顔見知りの須藤氏と布施氏ですが、これまで2人一緒に格闘技関係の番組の解説をしたことは?
布施「一緒に解説するのは初めて。僕は須藤さんの試合を解説したことはたくさんあります。東京ドームでやった『コロシアム2000』を筆頭に(笑)」
須藤「現役時代はよく取材していただきましたね」
3人から見る「ONE Championship」の魅力とは?
須藤「僕は現在、拓殖大学のレスリング部の監督を12年やっているので、どちらかというとアマチュアレスリングを見ることが多くて、総合格闘技を見る機会がそんなになかったんです。このお話をいただいて改めて映像でONEを見て感じたのは多様性。いろいろなタイプの選手がいて、文字通り“総合格闘技だな”と思いました。格闘技の選手はそれぞれのスタイルはあるんですが、意外にタイプが決まっているというか型にはまっている選手が多い。スタイルにもパターンがあるんですが、ONEの選手を見ると“えっ!? こういうパターンがあるんだ”と思わせてくれる選手が多かった。トリッキーな選手もいるし、出身国それぞれの特徴があったりもする。そういうところが魅力的ですね。 僕のモットーは “We are all one”なんですけど(笑)、ONEは“We are ONE”と言っていますよね。いろいろな多様性がONEという戦いの中で一つになっている。試合自体もポイントで勝っていこうという形じゃない。チャトリ代表の思想性がちゃんと格闘技に出ていると思います。そういうところも魅力的だと思います」
布施「アジアって何が誇れるかというと、タイ料理を筆頭とするアジアン・フード、もう一つはマーシャルアーツだと思うんです。アジアって各国にそれぞれの料理がある。格闘技も料理同様、各国にいろいろな格闘技がある。その中でも日本が一番種目が多いんですが、実は日本人には知られていない格闘技が東南アジアにはまだまだたくさんある。ONEはそういう知られざる格闘技をベースとする選手が出てくるすごく魅力的な場になっています」
そこは須藤さんの言う多様性にかぶるところ?
布施「そうですね」
多様性といえばまさに現役時代の須藤さんなのでは。
須藤「僕は差別化をはかるというか、トリッキーというポジションで他の選手とは違うアプローチで試合させていただいていました。ONEにはもちろんオーソドックスに戦う選手もいますが、そういうトリッキーな、ゲームや漫画に出てきそうな選手も結構出ていて面白い。“こういう選手もいるんだ”という新たな発見もあります」
赤平「市場をアジアに絞っているのは大正解」
この2人を相手にしている実況の赤平氏は大変なのでは?
赤平「私は畑が異なっているといいますか。須藤さんはプレイヤーとして、布施さんは伝える側としての格闘技のプロなので、そういった目線はお任せしていて、私はONEについてはもっとビジネスの方面から見ています。もともと大学院で経営学を勉強していたので、ONEのチャトリさんや、投資家の皆さんがすごい金額を投資している理由がONEのことを勉強して分かってきました。まず市場をアジアに絞っているのは、北米に出て行く理由がないから。東南アジア圏は経済が成長中で平均年齢が圧倒的に若い。その市場成長性とこれから人口ボーナス期に入っていくことを考えると、間違いなくアジアで正解。これをアメリカの投資会社が見て、パンと300億円投資するのは当たり前の発想なんです。そこにまずよく目を付けたなと思いました。“UFCのことは全然気にしていません”とUFCを切ることができるというのは2人がおっしゃっていることなんですが完全に差別化の戦略で、経済的な視点から見て、これは成功すると思いました。もうひとつはONEのミッションがすごい、いい差別ポイントだと思いました。相手に対する配慮や技の美しさ、高度なテクニックなどはアジアの文化圏にマッチしやすいんです。経済で大事なのは文化に入り込むことで、それで市場が成長する。この両軸が回っている。ONEの経営陣は単純に格闘技興行としては見ておらず、もっと深くビジネスのシェアで入り込もうと思っているんだと思うんです。選手の皆さんも結構そういうことを言っているというのはそういう考え方が選手に浸透しているということ。それはチームマネジメントとしてはすごく大事なこと。ウェル・トップダウンで、貫通しているONEという団体はすごいと思いました」
ちなみに赤平氏は大学院で経営学を学び、MBAを取得している。
須藤「勉強になります」
布施「その角度からONEを語れるのは素晴らしい(笑)」
須藤「確かにONEは選手の平均年齢が圧倒的に若いですよね」
日本の格闘技界はかつて世界の格闘技界をリードしていたが、今では完全に抜かれてしまっている?
須藤「日本が格闘技ブームに火をつけたのは確かな事実だと思います。日本にはPRIDEがあって独自の格闘技文化が育った。同時にアメリカにはUFCがあり、格闘技が広がっていった。でもマーケットは当時、日本が一番大きかったと思うし、総合格闘技たるものを作ったベースになるところは日本だと思う。抜く抜かないという発想より、格闘技が広がっていくことはいいことだと思います。今、日本人選手がONEやいろいろなところに出ていくというのも大変いいこと。そしてサイクルというものは必ずあります。経営もそうですが、導入期〜成長期〜成熟期〜衰退期の4つのサイクルがある中で、ONEが盛り上がることによって、日本の格闘技市場というものも、もう1回、導入期から成長期に登っていくのかなとは思っています」
赤平「布施さん、格闘技のグローバリゼーションって拍車がかかっていませんか?」
布施「そうですね。ONEが出てくるまで日本ではどんどん格闘技の人気が衰退していた。その時にどうしても比較対象となったのは北米、アメリカのMMAだった。ONEができたことにより日本がアジアに内包され、アジア対世界、アジア対北米という見方ができるようになったのは大きい。結局、総合格闘技のマーケットが広がったということにつながったと思うので、すごく発展性がある。これからどう膨らんでいくのかというのは楽しみです」
須藤「すごく大きくなっていきますよね。今、アメリカやブラジルからどんどん選手が出てきているじゃないですか。正直、アジアの枠を超えてきている。そういう話でいうとUFCはアジア圏の選手抱えていないので、マーケットとしてはこちらのほうがシェアは大きい」
布施「そこはまさに差別化ですね」
須藤「そういったところはONEが他とは違うところなのかと。でもUFCはUFCで王道を突き進めばいいと思う。金網で初めて格闘技をやったというところなどは尊重しつつ、ONEはONEで独自でやればいい。将来的にもしかしたら戦う可能性もあるし、切磋琢磨するライバル関係になったということは大きい」
布施「ONEはMMAだけじゃなくムエタイやキックボクシング、果ては国際式ボクシングまでをオールインワンにした」
ONEと日本の格闘技団体が戦う可能性も? そんなことが起きれば日本のファンもワクワクする。
須藤「ファンの視点からしたら、どこに出るとか出られないとかいう垣根はいらないわけじゃないですか。そういった中でONEなんかが大きくなっていって垣根を越えていけばファンの見たいドリームカードをどんどん実現させることができる。実際、先日は修斗との提携も発表されましたし。ONEとかUFCとか関係なく、戦ったり対抗戦なんかができたら面白いと思いませんか?」
赤平「ビッグバン的ですよね。国や壁も関係なくなっている」
布施「しかもONEはMMAだけじゃなくムエタイやキックボクシング、果ては国際式ボクシングまでをオールインワンにした。これは画期的で世界的に初めて。だから何でも見れる」
ONEは大会数も多いですね。
布施「多いですね。だから契約選手数がどんどん増えている」
赤平「選手的には戦える場が増えるのはいいことですか?」
布施「いいことです。アジアはハングリーな選手が多い。チャンスが広がる分、成長する選手が多くなるのではないでしょうか」
須藤さんが現役時にONEがあったら行きたかった?
須藤「僕がやっていた時は日本国内に大きい大会がたくさんあったので、国内のほうが魅力的だったというのは正直あります。それに露出は大事ですよね。僕が現役の時は民放で放送するかしないかというのはとても大きかった。今はネットでの配信が中心ですが、でもこうやってONEが民放のテレビ東京でやるのはものすごく大事。格闘技ファンだけではない、マスに見てもらうためにはテレビは大きい。特に当時は単に試合をするしないということより、放送するかしないかは大事でした」
赤平「アメリカのスポーツはPPVで放送することが多いんですが、ボクシングはコアファンに絞ってライトユーザーを切り捨ててしまって、うまくいかなくなったビジネスモデルなんです。そこに参入してきたDAZNのマスに簡単にリーチできる新しいやり方がうまくいっているというのは象徴的なことなのかと思っています。格闘技も以前はコアファン向けでもよかったのかもしれないけど、最近は逆の流れがきている感じがしています」
番組を通じて伝えたいこととは?
布施「今までになかった格闘技の価値観を一般ユーザーに伝えていきたい。競技だけじゃなく新しい選手も含めて。こんな個性的な面白い選手がいること、誰も知らない未知の格闘技をベースとする選手がいるということを」
須藤「格闘技を知らない人、知っていてもONEをあまり見たことない人にONEが身近な存在になっていけばいいなと思っています。ONEって、なんか気持ちがいいというか、相手をリスペクトしたり思いやる気持ちが根本にあるんです。格闘技は野蛮なものではなくスポーツ。選手たちの試合後の態度も気持ちがいい。そういうポジティブな格闘技が見られると思うので、そういったところを伝えていければいいなと思っています」
赤平「我々はアジアの一員であるということをONEを通じて日本人がもっともっと分かっていければいいなと思っています。アジアの筆頭ではなく“一員”であるということ。そこから我々もアジアと親密な関係になっていける。そのきっかけがONEにあると思うんです」
最後に3月にあるONEの初の日本大会に期待するところ、注目するところは?
布施「やはりタイトルマッチ。その中でも青木真也選手に期待しています。青木選手が日本でMMAをやるのは本当に久しぶり。その中でタイトル奪還できるかは大きいし、秋の日本大会第二弾につながるので青木選手には頑張ってもらいたいです」
須藤「僕もタイトルマッチが4つあるというのは楽しみです。青木選手には母国開催でしっかり勝ってチャンピオンに返り咲いてもらいたい。そして僕はまだONEを生で見たことがないので、どんな空気になるのかというのがとても楽しみなんです。各興行によって雰囲気って全然違うじゃないですか。UFCも最初に来た時はすごい空気だった。なんか違うんですよね。ONEの震度数っていうんですかね。そこを感じ取りたいし、皆さんにも感じとってもらいたい」
赤平「須藤さんとかぶるところはあるんですが、現場に行くと興行の色って明確に分かるんですね。最近だとボクシングの井上選手が勝った興行は、日本のボクシング興行ではなく海外のボクシング興行だったので演出が全然違った。めちゃくちゃカッコよかった。ONEも演出は凝っていてイベント的にお金がかかっている。それは現場で見ると分かると思う。日本格闘技界の2000年代前半のような熱量が戻ってきたような感じになるのではないかと思います。でも遠方に住んでいたりして、当日、会場に来ることができない方はテレビ東京は無料なので(笑)、ぜひこの番組を見ていただければと思います」
3月の大会に行く予定の人はもちろん、現在の格闘技界の動向をチェックするうえでも押さえておきたい番組といえそうだ。(本紙・本吉英人)