小手伸也「自分のセンサー次第で感じ方ががらりと変わる作品」

(撮影・辰根東醐)
 稽古に行くにあたってはなにかを持って行くタイプ? 演出家に引き出して!というタイプ?

「準備には時間をかけます。ただそのすべてを稽古場で忘れるようにします。あんまり、これでいこうと用意していったところで、それが違うとなった時は対応が一歩遅れるだけなので、あまり決め打ちしてはいかないようにしています。でもそういう試行錯誤を繰り返してきたという事実だけを心のどこかに置いておいて、その経験を踏まえたうえで、アクティブに反応できるようにという予防線の張り方はしておきます」

 引き出しは作っておく。閉じてはいるがあるという安心感を持つ?

「順次、すぐ出せるように引き出しには得意分野は入れておいて(笑)。“あ、それならすぐ出ます!”みたいなことはしますけど、机の上に出しておくようなことはしないですね」

 海外の演出家は初めて?

「ワークショップを受けたことはありますが、仕事をするのは初めてです」

 楽しみと不安?

「どっちもありますけど、母国語が日本語でないということで、基本的に意味論って僕らを演出してくれないと思うんです。言葉が通じれば、つたない芝居だとしても言っている内容は分かるじゃないですか。でも言っている内容がそもそも理解できない方に対して、言っている内容を伝える心境がまずないといけないというか…。“あなたのことを愛しています”というセリフがあったとして、“愛しています”という言葉を知らない人に、“愛しています”を伝えるためにはどうしたらいいんだろうといったことが多分重要になってくると思うんですよね。その言葉を知っていれば、言葉を使えば、“ああ愛しているのね”という意味論で会話ができるんですけど、まずその“愛しています”が共有できていないとしたら、じゃあ何で伝えるかということがすごく重要になってくる。多分、海外の方はそういう目線で演出をされるんですよね。だから前にワークショップを受けた人は、そういう意味論だけで芝居をしている人に対して“トーク! 会話をしろ!”と言っていました。その言語を理解していない人間からしてみたら、会話が成立していないように見える。それは多分、意味のやり取りしかできていなくて意識とかそういう内面的なキャッチボールが成立していないから。“そういう見方をされるんだ”と思ったことがあります。これはすごく刺激的だし不安だけど、ものすごく挑戦しがいのある課題。ここで学んだことは絶対的にモノにできると思うので、1修行の場としても全力を尽くしたいと思います」

 主人公の名前が2人とも同じというところに何か意味ありげなものを感じます。

「自分なりのチューニングでいろいろ考えるといいと思います。ただそれこそがストッパードのワナの可能性もあります。そういうミスディレクションを誘っている気がするんですよね」

 この2人の関係については決定的な単語は何一つ出てこない。こちらが考えるほどに関係なんかもないのかもしれない。

「ストッパードさんご本人から直接うかがえないので分からないんですけど、この人の持つ、シニカルな部分。“ああ、そんな深読みしちゃったんだ~”というような、いたずらなこちらをもてあそぶ感じ。そのユーモアのセンスも含めての構造になっている気がします。俳優に対してこれだけいろいろなことを考えさせるし、観客にもそうやっていろいろなことを投げかける。この人は見る人にもやる人にも全方向に向けて仕掛けてきているような気がしています。一筋縄でいかない作品です」


 最後にinnerchildは今後どうなる?

「再開したいと思っているんですが、お金がない(笑)。地力をつけて知名度を上げて、僕に融資してくれる、そういう方を絶賛募集中です(笑)。知名度が上がれば簡単にお金を貸してくれる人がいるという話を聞いたことがあるので(笑)」

 再開の日が待ち遠しい。

「僕はこの間、野田秀樹さん、いのうえひでのりさん、そして昨年の三谷幸喜さんと日本でも指折りの3人の演出家の作品に出させていただきました。この3人はそれぞれ違った分野の天才で大きな影響を受けました。僕はその三角形のいいところ取りをしたいという感じでいます(笑)」

 贅沢。でも実際にかかわった人でないと言えないし、目指せないこと。

「今、僕が作・演出をするならば、10年前に書いたものとは全く違うものが生み出せるのではないかという自信はあります。僕らは舞台上で映像を使っていたのですが、当時はそんなことをする人はいなかったので大変でした。今でこそプロジェクションマッピングが当たり前のようになって、やりたかったことが簡単にできる時代になってしまったので、逆に一切映像を使わない可能性もあります。この十何年で培ってきたことを再確認して表現する場所として、自分の劇団は守っていきたいという気持ちは持っています」


 今回の作品は俳優・小手伸也としてはもちろん、作・演出家の小手伸也にとっても得るものの大きい作品となりそうだ。
(TOKYO HEADLINE・本吉英人)
俳優とオーケストラのための戯曲『良い子はみんなご褒美がもらえる』
【日時】4月20日(土)〜5月7日(火)
【会場】TBS赤坂ACTシアター(赤坂)他、大阪公演あり
【料金】全席指定 1万円
【問い合わせ】パルコステージ(TEL:03-3477-5858 [HP]パルコステージ公式サイト
【作】トム・ストッパード
【作曲】アンドレ・プレヴィン
【演出】ウィル・タケット
【出演】堤真一、橋本良亮(A.B.C-Z)、小手伸也、シム・ウンギョン、外山誠二、斉藤由貴/川合ロン、鈴木奈菜、田中美甫、中西彩加、中林舞、松尾望、宮河愛一郎
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