【インタビュー】『夫のちんぽが入らない』から『詐欺の子』まで中村蒼が「挑む」理由


まさに天職! 現実で悩みがあるほど芝居が楽しい



『夫の—』や『詐欺の子』と、難しいテーマと役どころへの挑戦が続く。

「もちろんハッピーな役どころも好きですよ(笑)。でも僕はあまり、どんな役かで作品を決めることがないんです。どの役が挑戦でどの役がそうでないのか、そういうことを意識して作品を決めたことはないですね。確かに、どちらの作品も簡単な題材ではありませんけど、僕自身はあまり難しいことは考えていないので(笑)。僕は、演じる人物を細かく分析するとか、どう役に自分を近づけるかを、自分の中だけで考えすぎないようにしているんです。自分とまったくかけ離れている役どころでも、1つ大事な部分を理解することができれば演じていける。『おとちん』の研一であれば誰にでも人に言えないような悩みがあるだろうとか、『詐欺の子』の大輔だったら父からDVを受けて足を悪くしながらも女手一つで自分を育ててくれた母への思いとか。どのみち人間の感情は複雑なものだし、実際に現場で演じて作っていく部分も大きいので、自分の中で考え込まず、現場で生まれたものを出し切ることを大事にしています」

 中村にとってはどんな作品も“挑戦”であるがゆえに、難しい役どころもそれと意識することなく演じてきたのかもしれない。そんな中村にも“人に言えない悩み”が?

「10代のころはけっこうありましたね。本当に小さい悩みなんですけど(笑)。僕は高校生のうちに福岡から上京したので事務所から門限を設けられていたんですが“門限がある”ということを周りに言えなくて、それが当時の自分にはけっこうな悩みだったんです。もちろん事務所の人に嫌だなんて言えないし、友達に言ったら門限を守っている真面目なヤツと思われるし、かといって破る勇気もないので…(笑)。今は、悩みというか将来のことや日々のことは、やっぱりいろいろ考えます。ただこれは人に言えないというより、自分で考えて解決していかなければいけないことだと思うので」

 安定した職業ではないので、と苦笑する中村だが、俳優は天職では。

「どうでしょうね。ただ、現実で何か悩みがあったりすると、芝居をするのがより楽しくなるんです(笑)。悩みを忘れて、非現実の世界に入り込めるというか。カットがかかると、ああ現実に戻っちゃった、と思うときがあります(笑)。早く現場に呼ばれたい、と思うんですよ。本番中は、本当に作品のことしか考えていない。役の人物として生きている。芝居は難しいけど楽しいんですよね」

 芝居以外の楽しみは?

「ラジオを聞きながらゴルフの練習をして、休憩時間に本を読む…というのが最高の時間ですね。ドキュメンタリーもわりと見ます。今回の『詐欺の子』でも思ったんですけど、やっぱり本当のことだからつい引き込まれてしまう。役者としては、自分も目に入った瞬間から引き付けられるような、嘘のない芝居をしなければいけないな、と。ドキュメンタリーを見ていると、そんなことも思います」

 いくつものリアルな思いと向き合いながら、ジャンルやテーマ、役の難しさにとらわれることなく嘘のない芝居を続けていく。(TOKYO HEADLINE・秋吉布由子)