【インタビュー】なべおさみが教える人生を娯楽にする方法「必要以上に後ろを振り返るな」

 山田洋次監督の喜劇「吹けば飛ぶよな男だが」で主演を務めるなど、昭和から平成をコメディアン・俳優として駆け抜けてきたなべおさみが、『昭和疾風録~興行と芸能~』(イースト・プレス)を上梓した。力道山、美空ひばり、水の江滝子、片岡千恵蔵など、錚々たる大スターの興行を展開した昭和の大物興行師・古池慶輔氏の生き様を通じて、 興行と芸能の醍醐味に迫った本作は、“故きを温ねて新しきを知る”だけにとどまらない示唆に富んだ一冊となっている。

 娯楽が少なかった時代、人々はどのようにエンターテインメントと接していたのか。興行とは何か、そして人生を楽しむ方法とは――。生き字引であるなべさんに話を聞いた。




――古池慶輔氏という興行師を通じて、昭和の興行の魅力を伝える本作ですが、驚いたのは古池さんと共に映る大スターの数々。なぜこれほどまでに貴重な写真が残っていたのでしょう?


なべ「写真を撮影することが好きだとは聞いていたけど、俺もこれほどあるとは思わなかったから、はじめて見たときはひっくり返ったね! なんせ、力道山、美空ひばり、水の江滝子、高峰三枝子、藤山一郎、エンタツ・アチャコ、片岡知恵蔵、阿部定、鶴田浩二、江利チエミ、三橋美智也、水原弘、石原慎太郎……すごい顔ぶれ。あの阿部定まで興行で招いているってんだから恐れ入るよな」

――性交中に愛人の男性を扼殺し、局部を切り取った阿部定を、服役後に舞台に上げてしまうというあたりが、昭和の興行のすごいところですよね(笑)。

なべ「今だったら考えられないよ!(笑) おおらかって言えばおおらかな時代だよね 」

――もともと、なべさんは古池さんと交友があったのでしょうか?

なべ「4回ほどお会いしたことがあってね。その後、娘さんと仲良くさせてもらっていた んだけど、久しぶりに彼女から連絡があって、本の中で紹介している写真を見せられ、 とっても貴重な写真だから驚いていたら、小さな写真を『大きく出来ないか』って相談さ れたの。デジタル化を安くするには出版だなって思ったのが、この本の企画の発想。娘さんは、当時は子どもだから記憶がない。それで、この本を書くにあたって当時を知る人物にコンタクトを取って、取材し、まとめていったんですよね」

――戦後の興行を知る人物たちの証言をもとに、ルポルタージュのようにまとめたわけですね。

なべ「数カ月にも及んだから大変だったけど、私個人が覚えていることと対象者の話がピタッとつながるような感覚は、面白かったね。戦後の興行や芸能プロダクションがいかにして隆盛してきたが分かる内容に仕上がっていると思う。今でこそエンタメはたくさ んあるけど、当時は一握りの娯楽しかなかったんだ。そういう歴史の上に今があるから、 若い人にも読んでほしいな」

――若い世代は、興行師の存在を知らないと思います。どういった人たちなのか、改めて教えてください。

なべ「分かりやすく言えば、「見世物」を催す人が興行師で、催しそのものを興行と呼ぶ。昔は、今のようにテレビやスマホで娯楽に触れることがないから、地方都市などはタレントに来てもらってショーステージやコンサート、つまり「見世物」を開催するわけだ。その上で、興行を生業にしている人には二つのパターンがあった。一つが、興行を組み立てて、その興行を売る興行社。もう一つが、その興行を買って、開催する興行師。この本に登場する古池さんは、後者ということです」

――なるほど。パッケージングする人と、それを買って仕掛ける人がいたわけですね。言うなれば、アルバムを作るレコード会社と、アルバム完成後にライブやテレビ出演などを展開するPR会社やプロダクションのような関係ですね。
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