【インタビュー】なべおさみが教える人生を娯楽にする方法「必要以上に後ろを振り返るな」
何でも前向きに考えろってわけじゃない。
必要以上に後ろを振り返るなってこと
なべ「その通り。形は違うけど、興行と興行師のDNAは、今の芸能界にも脈々と流れているというわけ。彼らが戦後、娯楽を支えたからこそ、今の日本の芸能史はあると言っても過言じゃない。それに今だって、縁日や駅前でワケの分からないものを面白おかしく実演して、聴衆に販売したりする人もいるでしょ? あれも昔から続いている興行だよね。俺たちが子どもの頃にも、その手の興行があったんだけど、雑なものはとことん雑だった! だまされることなんて日常茶飯事だよ!」
――気になります(笑)。今よりも、全然ひどかったんですか?
なべ「ひどいなんてもんじゃないよ! 忘れもしない小学6年生のある日。大人の気分を味わいたくて浅草に行ったんだ。当時は、お年玉が100円の時代。数百円を握りしめて何をしようかなってウロウロしていたら、20歳くらいのお兄さんが「あんちゃん、女性の裸を見たくないか?」って声を掛けてきて、袋の中からチラッと裸の写真を見せつけてきたの。豊満なおっぱいとおしりが見えて、生唾を飲んだ。そしたら、「1000円でどうだ?」って吹っ掛けてきたの」
――お年玉10年分を小6に吹っ掛けてくる! 1950年代前半の浅草……ヤバい雰囲気しか感じませんよ。
なべ「こっちも負けてらんないと思ったから、500円まで値下げしてやってさ。さぁ、商談成立! いよいよ女性の裸の写真を拝めると思って、ワクワクしながら袋の中から取り出される写真を見守っていたら、そのお兄さんが俺に渡す瞬間に突然、「ヤバい! 警察が見張っているから逃げろ!早くしまえ!」って叫ぶの。びっくりして、写真を服の中にしまって、群衆をかき分けて、一目散に駅を目指した。早く見たいんだけど、電車の中で写真を広げるわけにはいかない。家について、トイレに籠って、ゆっくり味わおうと思ったら……」
――どうしたんですか!?
なべ「相撲取りの写真が出てきた!」
――ハハハハハ!
なべ「見事にやられた! チラッとだけしか見ていないが、たしかにおっぱいとヒップだった。だます方もだます奴なら、だまされる方もだまされる奴なのさ」
――北インドあたりに行くと、今でも劇団じみた詐欺やぼったくりがありますが、1950年代の日本の繁華街の方が手口がえぐい……。小6をカモにするなんて恐ろしすぎますよ。
なべ「ハハハ! でもさ、不思議と「すげぇな」って子ども心に感心しちゃったの。テレビが登場する前までは、実際に目で見る、その場に行くことでしか娯楽に触れる機会は、ほとんどなかったわけ。毎日、そういう怪しかったり怖かったりする人がいて、詐欺まがいのことが起こるから、こっちの目も磨かれていったんだよね。変な話だけど、どんどん賢くなっていく感覚。興行ってピンキリだから、喝さいを浴びるものもあれば、怒号が飛び交うものもある。お客さんにとっては、ハレもハレ。とっても楽しみにして来場するわけだから、ものすごいシビアなんだよね。当然、演者も適当なことはできない。今のように動画で何回も見れないからさ」