話題沸騰中の「愛がなんだ」は、恋愛映画なんて簡単に呼べる代物じゃなかった!【黒田勇樹のハイパーメディア鑑賞記】

 こんにちは、黒田勇樹です。
 
 最近、映画とか演劇を見る時のことについていろいろ考えます。そしていろいろな考えの人がいるな~とも思います。

 劇場内でのマナーの問題についてはここで四の五の言いませんが、ほとんどの方は納得したうえで守って見ていてくださってると思うんですけどね。

 これからもそういう感じでお願いしたいです。

 というわけで今週も映画を見て来ましたので、鑑賞記いきます。

 すっかり映画コラムになってしまっていますが、相談も随時募集中ですのでよろしくです。
黒田勇樹
 岸井ゆきのさん、成田凌さん主演、今泉力哉監督の「愛がなんだ」を観てきました。

 ストーリーは、いわゆる“都合のいい女”であるテルコが、ダメ男のマモちゃんに片思いしてひたすら尽くしたリ振り回されたりしながら、周りの人間も巻き込んだ恋愛模様を描く…という、なんでしょう?だめンズウォーカーみたいな言葉が流行ったあたりから、現代映画の恋愛ものでは、ひとつのメインストリームになっている形。

 付き合ってないのに体は許すし、クビになるほど仕事よりマモちゃんを優先してしまう、異常とも思える主人公テルコに関しての描写が非常にリアルで「過去にこういうトラウマがあってこうなった」みたいな、よくある人物像の裏付けを全くしないのに「いるいる、こういう女の子!」と、いうところから、徐々に「誰しもこういう時期を過ごしているんじゃないだろうか?」と普遍的な人物像に思わせ物語に引き込んでいく語り口の上手さ。

 最近はジェンダーレスな切り口でものを言うことが良しとされているので、こういう言い方をすると批判されるのかもしれませんが、明らかに「男は持っていない“子宮という第3の脳”」を持った女性が書いた原作を、男性監督が客観的にとても巧みに映像化したからこそスクリーンに現れた「現代の恋愛模様」とも言えるんではないでしょうか?

 逆に男性側のマモちゃんについては「ファンタジーダメ男」と言いますか、確かにこの手の男はいっぱいいるんだけど、なんか違う。クズさとかバカさが振り切ってないのか、俳優がイケメン過ぎて嫌えないのか、ちょっと僕もはっきりとは正体を掴めていないのですが、人間になりきっていないような「不気味の谷」を感じます。

 双方の想いが描かれない映画を「恋愛映画」と呼んでいいのかと、ひっかかりながら観ていくと後半、ストーリテラーとしてテルコの視点で物語が描かれていたのではなく、完全にこの物語は「テルコの一人称の物語」だということが示されます。

 だからマモちゃんの「人物像」も「恋愛感情」もあんま明確に描く必要がなかったんだ!

 これはあくまで「マモちゃんに執着しているテルコ」という1人の人間の物語であり、「テルコとマモちゃん」2人の恋愛物語ではないのです。

 そうなると、描かれていない「テルコが執着する人間になった理由」が、非常に効果的と言いますか、なんなら「女ってこういう生き物よ」と突き付けられた恐ろしさの様なものを感じます。

 ネタバレを回避するため、観た人にしかわからない様に書きますが、きっとテルコはあのラスト直前の飲み会のシーンのあと、めちゃくちゃセックスしたんですよ!?恐ろしくない!?

 これは俺が男子だからなの!?女の子は皆、あの感じわかっちゃうの!?

 ああ、早くこの映画を観た人と語り明かしたい。そう思わせてくれる良作でした。
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黒田勇樹(くろだ・ゆうき)
1982年、東京都生まれ。幼少時より俳優として舞台やドラマ、映画、CMなどで活躍。
主な出演ドラマ作品に『人間・失格 たとえば僕が死んだら』『セカンド・チャンス』(ともにTBS)、『ひとつ屋根の下2』(フジテレビ)など。山田洋次監督映画『学校III』にて日本アカデミー賞新人男優賞やキネマ旬報新人男優賞などを受賞。2010年5月をもって俳優業を引退し、「ハイパーメディアフリーター」と名乗り、ネットを中心に活動を始めるが2014年に「俳優復帰」を宣言し、小劇場を中心に精力的に活動を再開。
2016年に監督映画「恐怖!セミ男」がゆうばり国際ファンタスティック映画祭にて上映。
現在は、映画やドラマ監督、舞台の脚本演出など幅広く活動中。

公式サイト:黒田運送(株)
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