【インタビュー】スガダイロー「スガダイロートリオ」5年ぶりのオリジナルアルバムが6・19リリース
ジャズピアニストのスガダイロー率いる「スガダイロートリオ」が5年ぶりのオリジナルアルバム『公爵月へ行く』を6月19日にリリースする。5年ぶりといっても3年前にメンバーチェンジがあったので、実質初のアルバムといってもいいかも。またスガ自身、この5年の間に演劇の音楽を担当するといった新しい出会いもあり、ピアノとの向き合い方にも微妙な変化もあった。そんな意味でも注目度の高い作品となっている。
スガダイロー(撮影・小林郁人)
ここ数年取り組んできた「人の曲を弾く」「勉強する」がいい感じに形になったアルバム
そもそもなぜメンバーチェンジを?
「前々からその3人でやることには行き詰まりを感じていたんです。あとはだんだん3人のスケジュールを合わせることが大変になってきた。そんなことが重なって、こういうことになりました」
今回のアルバム、タイトルからしてデューク・エリントンをコンセプトの軸に置いた作品のようだが…。
「もともと『公爵月へ行く』という曲があるんですが、それを発表しようと思ったら、たまたまエリントンさんの生誕120周年でした」
その曲を作ったのは?
「2年くらい前ですね。ライブでは弾いていました」
今回のアルバムはオリジナル曲とエリントン、セロニアス・モンク、ジョージ・ガーシュイン、ハービー・ニコルス、市野元彦といったミュージシャンの曲のカバーで構成されている。この面々は自分の中ではリスペクトする存在?
「たまたまですけど」
たまたまリスペクト?
「(笑)いや、たまたま選んだらそういう形になった」
数あるリスペクトするミュージシャンがいる中で今回はこのメンバーを選んだ?
「コンセプチュアルに選んだわけではなくて、たまたま。そういえば3人ピアニストになっているな、とか。デューク・エリントンとジョージ・ガーシュインは多分同い年くらいじゃないかな」
昔から聴いていた?
「3年前に『マハゴニー市の興亡』という舞台で音楽監督をやった時にドイツのクルト・ヴァイルさんという作曲家の曲をやって、それでユダヤ人とジャズについていろいろ調べていたんです。そこでガーシュインやエリントンに興味が出てきて、最近は意識して聴いていました」
3年前から?
「もっと前から好きなんですけど、俺はあんまり人の曲は演奏しないんです。でも最近は人の曲をちゃんとアレンジして研究して演奏してみようかなという気持ちになって、そういうことをやりはじめていたんだけど、だんだん形になってきて、曲も増えてきた。だから今回このアルバムを作るために取り上げたわけではないです」
ライブでやってきて熟成されてきた?
「そう。いい感じに育った曲を入れてみたという感じなんだけど、結果としてまとまりはあるものになったとは思う」
やっていく中で?
「結果的にまとまった」
いつもそうじゃない?
「結局それしかない(笑)」
市野さんは? メンバーの千葉広樹とともにrabbitooというバンドを組んでいるが。
「前から今回カバーした曲が好きだった。知り合いとしては俺のほうが古いですね」
「I loves you porgy」というガーシュウィンの曲。原曲はかなり静かなのだが、アルバムではものすごく激しい曲になっている。
「すごくアレンジした曲もあるし、ほぼそのままじゃんというのもある。そこもあまり意識していないんです」
モンクもスガ同様、即興を得意としていた人。モンクの曲に譜面なんてある?
「あるっちゃあるんですけど、本人は譜面を書かなかったらしいんで誰かが再録したんだと思う。俺も一冊持ってます。モンク自身も時期によってちょっとずつ変わったりはしているけど、いつ聴いてもだいたい常識の範囲というか、この曲だな、と分かる範囲では演奏していますね」
今回、モンクはそこまでは外れていない?
「モンクの曲は外れてます。ほとんど外れちゃってる。譜面通りに弾く曲もあるんだけど、たまたま今回の曲は弾いているうちにそういう形ができて来ちゃった。ニコルスの曲はほぼ原曲のまま変えずに弾いています」
モンクの数多くの曲の中でこの曲を選んだのは?
「モンクの曲はいろいろ弾いているんですが、今回はアルバムのバランスを考えてこの曲にしました」
他の人の曲は?
「デュークは…コラージュみたいにしたくて、いろいろぐちゃぐちゃにしてみました」
映画『男はつらいよ』の車寅次郎の台詞からインスパイアされたという非常に長いタイトルの曲がありますが…。
「曲名が思いつかなくて(笑)」
寅さんは?
「大好き。全部見ているんだけど、もう3周しました」
イメージの中には渥美清がいた?
「寂しい曲だったんだけど、“毎年返ってくるツバメが帰ってこなかったら寂しいな”と、ふと思いつきまして(笑)」
映画の中にこういう台詞がある?
「あります。寅さんがケンカをして成り行き上出て行かなきゃいけないんだけど、実は止めてほしい。そういう“止めるんなら今だぞ”という時に必ず言うセリフ。“止めろよ”ということを長ったらしく言っているだけ。普通に、“サクラ止めるなよ”と言うときもあれば、これを言うときもある。すげえカッコつけてて面白い(笑)。あと、すげえ長いタイトルをつけたかったというのもあった(笑)」