豪雨あとの苗場にThe Cureが響かせたララバイ
ステージを見つめ、静かに時が来るのを待っていると、周りはさまざまな国や地域からの会話が飛び交っている。The Cureを見るためだけに、フジロックに来たのではないか、と思うくらい、国際色豊かな雰囲気を醸し出していた。今宵のステージへの期待が高鳴り、今か今かと登場を待ちわびる中、10分弱の遅れでThe Cureがステージに登場。
ロバート・スミス(以下、ロバスミ)は彼のトレードマークともいえる赤い口紅をつけており、オーディエンスに手を降り、ギターを手にした。その姿のチャーミングなこと。本物のロバスミが同じ空間にいるというだけで泣けてくるではないか。
リリースから30周年の名盤『Disintegration』から「Plainsong」でスタート。美しいシンセサイザーとギターメロディに酔いしれ、続く「Pictures of You」ではリアルに今、The Cureがここにいる!という何ともいえぬ感情を高揚させてくれた。ベースとの絡みがなんとも親子のように微笑ましいものであったが、メンバーのベースプレイヤーであるサイモン・ギャラップが個人的事情により不参加となり、サイモンの息子であるエデン・ギャラップが代理を務めたとのことだ。なるほど、微笑ましさには理由があったわけだ。
中盤での「In Between Days」から「Just Like Heaven」の名曲の流れは、オーディエンスは幸福感が溢れ出たサウンドを全身で受け止め、あちらこちらから歓声が聞こえてきた。どれだけの人が泣いているのだろう。かくいう記者もこの2曲を聞きながら目頭が熱くなり、両腕を大きく広げ、The Cureに感謝の意を表した。
ショーは一旦「Disintegration」で本セットが終了、アンコールへと導いていく。
時間的にも「アンコールは絶対にある!」とオーディエンスはわかっていたのだろう、「次の曲は何だ!」と、どんと構えた感はあった。すぐにメンバーがステージに現れ、アンコール最初にプレイしたのは『Lullaby』。蜘蛛男が忍び寄る有様がステージからも垣間見れるThe Cureを代表する一曲である。アコースティックのスローな弾き語りから入り、「こうきたか!」と思わずにはいられなかった今宵一番のハイライト「Friday I’m in Love」はオーディエンスの歓喜がグリーンステージをこだました。スクリーンに映し出されたハートにキラーチューンメロディ。伸びやかなロバスミの歌声に心が浄化されていく。ラストは全ての男の子に捧ぐ「Boys Don’t Cry」で幕を閉じた。
世の中、本当にたくさんの音楽が生まれている中、The Cureの潔さ、オリジナリティー、世界観は唯一無二の存在である。また素晴らしいライブバンドであることも再認識させられた甘美な時間だった。
(文・Utayo Furukuni)