カリスマ書店員3人が日比谷でトークイベント“マジ絶望”な世の中を生き抜くヒントとは?〈後篇〉
長江:僕は盛岡に引っ越して一番最初に読んだ本が宮下奈都さんの『羊と鋼の森』だった。ピアノの調律師の話なんだけど、その中にハーレー・ダヴィッドソンと50CCのバイクにたとえた調律の話が出てくるわけ。技術がないと弾けなくなっちゃう調律がハーレーだとすると、50CCのバイクみたいな調律もできる。相手の力量に合わせるのがいいのか、ピアノにとってベストな調律をするのがいいのかっていう話が、この本が本当に届くべき人に届く売り方をするべきなのか、もっと売るために努力するべきなのかっていう自分の葛藤にすごく合ってるなと思って「いまの僕の悩みはこれだ!」と。
内容的にはこのくらいのスケールの人に届くべき本なのに、「めっちゃ売れました」となったら、余白の部分の人たちにとってはあんまりいい結果じゃないと思う。ピンポイントで届けるのは無理だけど、余白の分をどれだけ大きくするかっていうのは、どういう切り口で売っていくかで変わると思うんだよね。
花田:小学6年生にドストエフスキーの『罪と罰』を読ませても不幸が発生すると思うけど、分かんないのに買っちゃって「全然つまんねぇわ」ってなっても、この一文だけ気になったってことは起きる気がする。そこをそんなにコントロールする必要はないんじゃないかな。
長江:読んでもらうために売るだけじゃないっていうのは考えるようになった。グッズとして売るとか、人にあげてもいいし、10年後の自分が読めばいい。ある程度そういう理屈を自分の中で作っている部分はある。