「ダンスウィズミー」に見る“日本のミュージカル映画” 　【黒田勇樹のハイパーメディア鑑賞記】

「ウォーターボーイズ」「スウィングガールズ」等の矢口史靖監督最新作「ダンスウィズミー」を観てきました。

　僕は、5才で初めて観た舞台がミュージカル「リトルショップオブホラーズ」、好きな映画は「ブルースブラザース」「ロッキーホラー」「シカゴ」「レ・ミゼ」「マペッツ」…上げればキリがなく、いつかは自分でミュージカル映画作ろうと企んでいるので、これを観に行かないワケには行きませんでした。

　いつかのいいとも！でタモリさんが「突然、歌いだす理由がわからない」と発言されて以降、日本ではどこかギャグ枠というか、シリアスな物より下に見られがちなミュージカル。更に楽曲の制作や大勢のダンサー、美術にもお金がかかる為、特に邦画界では最近あまり見かけないのですが、昔は良作がいっぱいあったんですよ！「無責任シリーズ」とか！「怪盗ルビィ」なんか最高傑作ですよ！

　この「ダンス～」は、そのタモリさん発言へのアンサーの様な「催眠術で音楽を聴くと歌って踊っちゃうミュージカル体質になった女の子」が主人公です。

　まずはこの設定で第一関門を突破し、前半は会社や夜景の中ではめちゃくちゃコテコテで「こういうのが観たかった！」というミュージカルシーンが展開されるのですが…

　途中から、ただの「懐メロPV集」になってしまっていたのがちょっと残念でした。
懐メロの多用は「アドレナリンドライブ」(←傑作です)から脈々と続く監督の得意技なのですが「ミュージカルの中の楽曲」って、登場人物の心理を描写しつつ、物語が劇的に進むときに使われるべきだと思うんです。しかしロードムービーチックな展開になってからは1曲1トラブルで、しかも知っている曲だから特にそれを1曲丸々聞いたところで観客側の持っている情報に変化がない。

　更に、やしろ優さんやchayさん演じる「普通に歌って踊るのが好きな人」が出てきて以降はもう催眠術関係なく、いくつかのトラブルを歌って踊って解決している(歌って踊るだけの時もある)だけに見えて物足りない時間が続いてしまいます。

　だったら歌えない友達や同じ催眠にかかった人を道連れにして「歌っちゃうことでトラブルが起こり続ける」方がコメディとして成立しやすかったのかもしれません。

　僕は「ララランドで突然歌い出したの笑える」という友達に、すかさず「え？過去の恋愛思い出すとき、まるで自分たちがああいう風に唄って踊ってない？」と答えたことがあるんですが、ミュージカルで本来歌うべきところってそういう「心の風景」なんですよね。

　設定をリアルにしてしまったが為の破綻というか、ミュージカルにもシチュエーションコメディにも振り切れなかった印象です。

　とはいえ現代の邦画でここまでのミュージカル映画が作れたこと、エンドロールで見られるこれも定番の全キャスト登場ミュージカルだけでも1800円の価値があったし、なにより「リトルショップ～」でムシュニックさんを演じられていた宝田さんのミュージカルシーンがまた観れただけで僕には宝物の様な作品なのですが…

「もっともっと面白い邦画ミュージカルが作れるはず！」という希望も込めて、分析させて頂きました。

　皆さま、是非劇場へ！