“日曜午後6時感”を思い出させてくれる ひたすらエモすぎる「ちびまる子ちゃんランド」
“エモい”の正体は、昭和生まれが口にする“昭和っぽい”と同義なのではないかと考えていた。昭和を知らない若い世代は、体感していないわけだから昭和的(なもの)が分からない。逆さに振っても“昭和っぽい”などとは、どうしたって口から出てこない。だけれど、言葉にできないノスタルジーというのは、世代に関係なく「いいなぁ」と思ってしまうもの。我々がそうした感覚を、往々にして“昭和っぽい”と称するように、若い世代は“エモい”という言葉を使うことで、昭和感を伝えていたのではないかと思っていた。「ちびまる子ちゃんランド」に来るまでは。
江戸時代を知らない我々が、EDテーマ「インスピレーション(ジプシー・キング)」が流れる「鬼平犯科帳」の花鳥風月を描いた至極のエンディング映像を見たとき、“江戸っぽい”などと感傷に浸ることは、まずない。 あの映像を見て、もしも言葉を紡ぐなら、どういうわけか“エモい”の方がよっぽどピタッとハマる。
ともすれば、“昭和っぽい”“江戸っぽい”という言葉以上に、“エモい”という言葉には、時代を超越したノスタルジーを形容する全能感があるのではないか。“日曜午後6時感”すら漂わせてしまうのは、そういうことなのではないか。この空間にいればいるほど、「ちびまる子ちゃん」という作品が、ただ単に昭和を描いているだけではないことに気が付かされる。やっぱりさくらももこ先生は、偉大だったんだ。
――エモの正体まで見えてくるような「ちびまる子ちゃんランド」。昭和のノスタルジードンピシャ世代が、「あの頃はよかった。そんな時代もあったね」と中島みゆきチックに悦に入るような郷愁だけには終わらない、圧倒的エモさを放っている。さくら先生没後一年が経ち、多くの家族連れ、カップルが押し寄せる同テーマパークを見ていると、時代、世代を超えて、親しまれていることが、とても伝わってくる。伝統・郷愁に、新しい世代がつぎ足し、味をアップデートしていく。まるで、うなぎ屋の秘伝のタレだ。うなぎ屋の秘伝のタレは、“エモい”んだ。
館内からこだまする、キートン山田の「後半へ、続く」というナレーション。ああ、まだ終わらないで……。出口に近づくと、何か日曜が終わってしまうかのような、やっぱりあの“日曜午後6時感”が押し寄せる。たまたまかもしれない。でも、扉の向こうは現実=月曜日が待っている。出たくないけど、出るしかない。「ちびまる子ちゃん」を見ていた日曜午後6時は、いつもそんな気分だった。ゆめいっぱい、の空間が広がっている。
ちびまる子ちゃんランド
【住所】静岡県静岡市清水区入船町13-15 エスパルスドリームプラザ3F
【営業時間】午前10:00~午後8:00(最終入館午後7:30)
【入場料】大人(中学生以上)600円、小人(3歳以上)400円 ※2歳以下は無料
【URL】http://www.chibimarukochan-land.com/
(写真・文 我妻弘崇)