【インタビュー】池田テツヒロ「これは自分たちの話」と初めて演出家だけの仕事を受ける

 俳優で脚本家・演出家としても活躍する池田テツヒロが演出を手掛ける舞台『どれミゼラブル!』が10月3日から東京・銀座の博品館劇場で上演される。同作は役者を目指す若者と売れない役者たちの悲喜こもごもを描いたコメディー。いや群像劇? 池田に作品のこと、そして最近の演劇界についても聞いてみた。
池田テツヒロ(撮影・辰根東醐)
 同作は2004年に初演。売れない役者たちが住む下北沢のアパートに地方から上京してきた俳優志望の若者が入居してから起こる珍騒動を描いた物語。

 池田は小劇場界で頭角を現し、その特異なキャラクターを引っさげ映像の世界にも進出。ドラマ『医龍』や『トリック』などですっかりお茶の間でもおなじみの存在となったが、若い頃はまさにこの作品の登場人物たちのような生活を送っていた。

 池田は作り手としては作・演出・出演や脚本という形で演劇に関わることが多かったのだが、今回は初めて演出のみでの参加となる。なぜ今回、この作品の演出を?

「ある作品に俳優として出させていただいた時に客席に若い人がほとんどいなくて“これは一度演劇界を立て直さないと”と思ったんです。ちょっと偉そうなんだけど(笑)。(出る作品を)ちゃんと選ばないと、本当に見てほしい人に見てもらえない。お客さんが楽しんでいるかどうかも分からない。“俺たちがやってきた小劇場って終わっちゃったのかな? これは自分が面白いと思う作品を作るしかない”と思ったんです。その時に脚本家のほうが自分のイメージしている面白いものを形にしやすい。だから演出家というものにはあまり魅力は感じず、自分の脚本を形にするための手段として自分で演出もしていました。でもこの作品はちょっと別だった。脚本を読ませていただいたら、まさに僕が終わったと思っていた小劇場界のお話で“これは運命かな?”と思って、終わるにしても再出発するにしても、この作品は自分の中で大きなものになるんじゃないかと思いました。

 今、下北沢が再開発されているけど、それが終わったときに小劇場文化というものが残っているのかどうか。消えちゃうかもしれないんですよね。文化的にも第一線、第二線でもないしサブカルでもなくなっている。単純に言えば、面白いと思うものは違うところに移ってしまった。でもやってきたことが、そこでゼロになるのは嫌だし、なってほしくないし、なるはずもないと思っている。面白いものを作ろうとあがいている同年代の仲間たちもいて、みんな衰退じゃなくて進化しないといけないと思っている。

 なぜこの可児さんの脚本を初めて演出家というだけでやらせていただこうと思ったかというと、そんな彼らの話だし、自分たちの話でもあるから。脚本の端々に出てくる小劇場文化みたいなものを終わりにしたくないし、終わりじゃないんだよっていうエールにもなると思った。内容的にも自分の経験が活かせるんじゃないかなと思って、今まで避けてきた演出だけという仕事をやらせていただこうと思ったんです」
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