【徳井健太の菩薩目線】第39回 俺たちは“お笑い氷河期世代” 駅前のシャッター通りだよ

“サイコ”の異名を持つ平成ノブシコブシ・徳井健太が、世の中のあらゆる事象を生温かい目で見通す連載企画「徳井健太の菩薩目線」。第39回目は、目前に迫る2020年について独自の梵鐘を鳴らす――。
 東京オリンピックまで1年を切った。酷暑対策、トライアスロンの水質問題などなど、問題が山積しているという。2020年は、俺たちにとっても大きな節目になる予定だった。

 俺は、「ピカルの定理」が終わった2011年、歯の矯正を始めた。そのときは、もちろん東京でオリンピックが開催されるなんて決まってはいなかった。ただ、40歳になる2020年、きっと俺たちの世代がお笑い界で、「もっと大きな役割を担っているはず」という期待を抱いていた。だから、俺は歯の矯正を始めた。表舞台に立つことが増えるだろうから、歯はきちんとしておく必要があるだろうって。

 2019年時点、歯の矯正は終わっていない。俺たちの世代が、お笑い界で確固たるポジションを築いている様子もない。お笑い界のマッピングは、想像していた以上に変わっていないという現実が広がっている。歯の矯正を始めるときの、「2020年はバラ色になるぞ」という期待は、淡い青色の写真だったようだ。俺が確固たるポジションを築くまで、歯の矯正は終わらないんじゃないかと、最近は思うようになった。

 2011年当時は、有吉さんやフットボールアワーの後藤さんなどを筆頭に、俺たちより一つ上の世代が目覚ましい活躍をし始めていく時期だった。「次は俺たちの番だ」。そんなことをピカルメンバーと話していたことを思い出す。コンプライアンスとやらが厳しくなって、上の世代では許されていた“バカなこと”や“くだらないこと”も、いつの間にかできないようになっていた。

 ここ数年で、AbemaTVなどのインターネット番組が台頭したことで、テレビ一強といった状況から変化が生じていると感じている。「出演する装置が多様化しているから大丈夫なのでは?」、そんなことを思うかもしれない。だけど、あぐらをかく気にはなれない。“お笑い第7世代”と呼ばれている霜降り明星やEXITらが注目を集め始めている今、近い将来、インターネット番組は彼らを中心に回るような気がするんだよね。ネットの良さを活かすために、勢いのある若手を起用したいと考える制作サイドが増えても不思議ではない。


ネットの台頭は、郊外にイオンができたようなもの



 一方、テレビの視聴者層は、超高齢化社会が訪れるとともに、ゆっくりと年齢層が上がってきている。テレビが求める人材は、その人たちにとって安心感のあるタレントさんが主流になっていくだろうから、俺たちの世代は非常に厳しい立ち位置にいると考えている。上からも下からも脅威にさらされる。お笑い氷河期世代。それが俺たちだ。すでにうまみがないと悟ったのか、同期のキングコング・西野や、ピース・綾部が違う路線に舵を切ったのも納得だよね。おまけにNetflixのような黒船までやってきてしまった。好きなときに好きなものを見ることができる文化が生まれた今、アラフォーの芸人は五里霧中だよ。

 郊外にイオンができたことで、駅前の商店街がシャッター通りになる――。俺たちの状況はそれに近い。ただ、くっきー!さん、(渡辺)直美といった芸人が、アーティスト、パフォーマンス路線を開拓してくれたこともあって、氷河期世代でも個性を活かせば、“古民家を改造してカフェを経営する”的な方法論で生き延びていけるかもしれない。残念ながら、俺にはそんなセンスはない。誰も使わない商品券を配るくらいしか、思いつかないんだ。

 でも、ピンチはチャンスだからね。面白い予感はしている。テレビもインターネットテレビもあがくなら今しかない、数年後には、もっと未来的な思考や文化が生まれているかもしれない。だったら、まだ影響力があるうちに試せるものは試そうという風潮が強まるような気がしている。2020年は、“際”の年だよ。お笑い氷河期世代の俺たちにとっても、大きな分岐点を迎えると予感している。

 オリンピックはどうなるんだろうね。俺の中では、オリンピック関連の仕事をしていたはずなんだけどね。

◆プロフィル……とくい・けんた 1980年北海道生まれ。2000年、東京NSC5期生同期・吉村崇と平成ノブシコブシを結成。感情の起伏が少なく、理解不能な言動が多いことから“サイコ”の異名を持つが、既婚者で2児の父でもある。よしもとクリエイティブ・エージェンシー所属。