岡田武史氏が日本サッカー界に「主体的にプレーする自立した選手の育成」を提言
アーセン・ヴェンゲル氏
ヴェンゲル氏「結果を予想し、俯瞰して問題点を見つけ出す」
そういった若い選手の才能を引き出すということについて岡田氏は「ある生物学者が、先祖が氷河期なんかを乗り越えてきた強い遺伝子を持っているが、こんな便利で安全な社会にいたらその遺伝子にスイッチが入っていない。スイッチが入るには危機感とか困難を乗り越えてきて初めてスイッチが入る。今、我々が作って来た豊かな社会は困難をどんどんなくしている。なにもしなくても生きていける。そんな時にメンタリティーが強い人間はなかなか出てこない。僕は98年のW杯の時に、97年にカザフスタンで加茂さんが更迭になられて、僕がいきなり監督になった。41歳で監督の経験がなかったのに。凄いバッシングがあったし、有名になるとは思っていなかったから、電話帳に載せていたら脅迫電話が止まらない。家の前は24時間パトカーが回っていて、子供は危険だから学校は送り迎えしなさいって言われて、家内が毎日心配していた。考えられないような状態で生活していた。最後にジョホールバルに行って、家内に“明日。もし勝てなかったら俺は日本には帰れない。海外に住むことになる”って本気で思っていた。ところがそれからちょっとして、“もういい”となった。明日できることは今の俺の力を出すこと以外はできない。ある意味命がけでやる。それで駄目だったら自分の力が足りないのだから仕方ない。“国民の皆さん、申し訳ありません”と謝ろうと思った。でも、“絶対俺のせいじゃない。俺を選んだ会長、あいつのせいや”とも(笑)。こう思った瞬間から多分、遺伝子にスイッチが入って自分の人生が変わり始めた。怖いものがなくなった。そういう経験をどんどん社会がなくしている。スポーツだけでメンタリティーを強くするのは難しい。ヨーロッパにはまだそういうところは残っている」などと自らの経験をもとに分析する。
これにはヴェンゲル氏は「選手はプレッシャー下でいかにいいパフォーマンスを出すかということに専念する。そこでできることは自分の全てを出すこと。そしてできなかったら謝ろう。そこで切り替わるわけです。プレッシャーがかかったら逃げるか直面するかの二択しかない。もちろん怖いという思いは誰の中にでもある。ただ、もし負けたらどういう結果が出てくるのかということを考えると、負けないためになにをしたらいいかということは俯瞰して見ると分かってくるのではないか。なので結果がどういうふうになるかを予想して、問題がどこにあるかが分かったら、その問題を解決することが大事なんだと思う。怖いと思うことは自然なこと。負けないために問題点がどこにあるかを引いて見て、どう解決するかを自分に課していくしかない」と話した。