日本の農業の未来を見すえ、産地の流通改革を。菊池紳(たべもの株式会社 創業者)
産地と都市をつなぎ、ニーズをマッチングさせる流通・物流プラットフォーム「SEND」を開発し注目を集めたプラネット・テーブル創業者・菊池紳さん。そして今、さらに挑む生産地の出荷・物流を救う新たなビジネスとは。
菊池紳(きくち しん) 起業家、ビジネス・デザイナー。1979年東京生まれ。大学卒業後、金融機関や投資ファンド等を経て、2013年に官民ファンドの創立に参画し、農畜水産業や食分野の支援に従事。2014年にプラネット・テーブルを設立。「SEND」(2017年グッド・デザイン金賞 受賞)、「Farmpay」など、”食べる未来”をテーマに、デザイン/テクノロジー/サイエンスを活用した新しい事業を生み出している。2019年にたべもの株式会社を創業。
「農業を持続可能にするための仕組みづくりを」
「投資ファンドで働いていた29歳のときに 山形の祖母から農家を継いでくれないかと相談されたんです。それで農業を継ぐことを考え、1年半ほど山形や各地に通い週末農業のようなことをやっているうちに、いろいろな課題が見えてきた。作物を育てることは楽しい。でも収益や後継のことを考えると苦しい。生産者の複雑な気持ち、すなわち日本の田舎を理解していく期間でもありました」
生産者と都市のニーズをマッチングさせる流通・物流プラットフォーム「SEND」を軌道に乗せた菊池さんは、5年を経てさらに農業の現場に切り込むことを決意。
「ソーシャルグッドの観点から言うと生産者支援が重要視されがちですが、僕は本当のサステナビリティーを重視しています。SENDで産地と都市の作り手をつなげることができましたが、そもそも産地が抱えている問題をどうにかしないと日本の農業に未来はありません。 農業離脱のペースがかなり早くて、生産者は激減。一方で世界全体の消費は増えている。現にトマトや小麦やトウモロコシの国際相場は右肩上がりが続いています。このままいくと世界的に供給が足りなくなるのは目に見えているんです。先端情報と接続するだけじゃなく今のボリュームゾーン、普通の人たちが普通に食べる部分の改革を今やらないと手遅れになる、と僕は思っています。そこで新たな会社で立ち上げたのが〈ハレルヤ〉というサービスです。今、多くの産地では働き手不足に加えて高齢化が進んだり、 近隣の集荷場が統廃合されたりして、直売所に持っていくことすら大変になってしまった農家さんが少なくない。そこで、産地からの“ファースト1マイル”をサポートすべく、作物をピックアップに来てくれるピッカーさんを配置し、買い取って拠点に集め、それを流通させていくという仕組みを作りました。基本的に全量買い取り、農家さんはどんな種類の野菜でも出荷することができ、よい品質の野菜は買取価格も上がります。地元の若手や、農業に興味があって移住した方などがピッカーさんとして働いていて、コミュニティー参加にもひと役買っているようです。また、僕が作った仕組みは基本的に20 ~50代をターゲットにしているんですが、この世代の人たちが続いていけば高齢な方は畑の見回りや指導的役割に回ることができる」