川﨑真一朗「みんなが自分を応援してくれていることに胸を張れるようなファイターになりたい。」
K-1ファイターとしてキャリアを重ねつつある現在、自分はどういう存在になってきていると感じていますか?
「周りと比較してということだと、まず“真面目すぎる“こと。それから“ほかのファイターたちはカッコいいし華やかなのに自分は地味やなぁ……”と思っています。たとえば武尊選手はKー1ファンはもちろんのこと、ファン以外の方にも知られている。でも僕はKー1ファンの中のさらにごく一部。もちろん気づいてもらえるようになったことは1つの変化としてうれしいですが、まだまだ全然、選手としてはダメだなと。他競技ならイチローは野球選手、羽生結弦はフィギュアスケーターというように、誰もが名前だけで何者か分かるような人がいる。格闘家でも武尊選手はそこまで行っていますよね。テレビ番組にも出て、試合では観客がスタンディングオベーションする、これは完璧ですよね。そのことでKー1そのものを外に広めているのが凄いと思います。だから自分を知ってくださっている方々に感謝はしていますが、それで浮かれている場合ではないと思っています。一方で、応援してくれる人がいることがモチベーションでもあり、もし年齢が同じなら一緒のリングに上がりたいだとか、応援してくれる人が“お前は俺の夢だ”と本気で思ってくれている。その人たちを会場に連れて行きたい。高校球児なら“甲子園に連れていく”というような感じです。可愛がってくれているみなさんに恩返しがしたいし普通ではありえないことをプレゼントしたいんです。自分が良く言われようが悪く言われようがどう見られてもなんとも思わないのですが、胸を張って“K-1の川﨑の応援してるんだ!”と言ってもらえるようにしたいですね」
対戦相手の分析力の高さも知られていますが、どのような方法なのでしょうか。
「同じ動画をひたすら見ます。何回も何回も流し見しているとパターンが見えてくるんです。“これが来たら、これが来る”というのはどんなにトレーニングしても抜けない癖があると思うので。特にKrushやK-1はみんなレベルが高くて癖が抜けないので、そこをしっかり見抜いて撃つというのが自分のやり方です。試合の光景は基本的に映像で横からになってしまうのですが、試合を下から見ている感じと、テレビのアングルで見るのでは見え方が全然違います。上から見るとカッコよく見えて下から見ると下手に見えるというほど違いがある。小さい頃からやっているような相手は僕よりはるかに手足も長く、その辺で感覚が狂ってくるので、なるべく試合と同じ目線で見るようにはしているのですが、なかなか映像だと難しいので、頭でイメージをします」
もともと格闘技を始めたきっかけは?
「原体験としては小学4年生くらいから少林寺拳法を習い始めて週一回程度、遊び感覚で高校まで続けていましたが、そこはレクリエーション的な色合いが強かったですし、そもそも型がメインなので実戦向きでもなかった。原点として僕はジャッキー・チェンのアクション映画などが好きな影響からテレビでKー1など格闘技も見始め、“いつかキックボクシングをやりたい”と思っていました。レミー・ボンヤスキー選手などの外国人選手が活躍していた頃を経て魔裟斗選手の試合を見るようになってから“カッコいいなぁ”と。あんなふうになりたいと思いました。ただ両親がキックボクシングに良い印象を持っていなかったですし周りにその環境もありませんでしたので、中学・高校にかけては強豪校でサッカーをやっていました。でも家ではサッカー日本代表戦の中継ではなく魔裟斗選手の試合を見ながらサッカーで応用できそうなプレーを探していました(笑)」
名門の関西大学に進学し、部活で少林寺拳法を新たに始めたとのことですが、どのような経緯で?
「とにかく”普通の道を歩んでほしい”と思っている両親でしたからね。ただ、実は僕、勉強ができなくて(笑)、そんな自分がどうやったら良い大学に行けるかを考えたんです。自分のレベルに合った大学に落ち着いているようでは無気力になってしまうから一発逆転しなくてはいけないと思いながら、やっぱり普通に勉強するのはイヤで(笑)、今の自分のアタマで受験勉強をせずに良い大学に入る方法を徹底的に調べた結果、AO入試にたどり着いたのです。一般入試よりも倍率が高いのですが、自分は高校時代に書道十段を取り全国大会にも出たので関西大学の入願資格に該当しました。これなら行ける!と思ったのですが、今度は2000字程度の志望動機が書けない(笑)。部活を早期引退して夏休みに誰もいない校舎に自分で鍵を開けて入り、朝9時から夕方6時までひたすら文章を書きまくって、なんとか形にして合格しました。ある意味バカだったからできたのかもしれませんね(笑)。それで、“入れてよかった”という安堵感から大学時代は遊んで終わろうかと思っていましたが、その矢先に少林寺拳法部に勧誘されて刺激を受け、大学時代は部活に費やしました。周りも何かに対して真面目に取り組んでいる人が多くて、夢中になってアツくなることをちゃんと尊重しあって会話もできる。僕自身は変わり者だと自分でも思いますし、人付き合いも得意なわけではないですが、多分まっすぐ前だけを見てきたから、人との出会いに恵まれたのでしょうね。もし周りが適当にやっているような学生たちだったら“へー”で終わってしまっていたでしょうから」