佐藤浩市×吉岡里帆 東京2020で沸く日本。そして世界に届けたい 映画『Fukushima 50』
佐藤浩市
「日に日に顔が変わっていく」壮絶演技
覚悟を決めた役者たちを迎えたのは、関係者も驚いたというほど細部までリアルに再現された、2号機中央制御室(中操)と、緊急時対策室(緊対)のセット。そのリアルなセットが迫真の緊迫を生んだ。
佐藤「役者としてはそういうリアルな環境に身を置いて芝居ができたのはありがたかったです。もちろん、現実にあの場にいた方々と全く同じ気持ちになどなりえませんが、役者たちなりにそういう思いを持って現場に臨んでいたので、撮影している間にみんな、どんどん顔が変わっていくんです。シワの数が目に見えて増えている、なんて話もありました。電源をロストしてからのシーンは照明を落として、真っ暗ななかで芝居をしていたんですが、本当に気が滅入ってくるんです。僕らはその日の撮影が終わればセットから出ることができたけど、現実にあの場にい続けた方々はどんな思いだったか…リアルなセットの中で、いろいろなことを考えましたね」
その娘・遥香を演じた吉岡も、佐藤たちの壮絶な変化を目の当たりにした。
吉岡「私がクランクインしたのは、全体の撮影の後半のほうだったのですが、佐藤さんにお会いしたとき、背筋が寒くなってしまって。佐藤さんといえば、若々しくてかっこよくて、デニムが似合う大人…というイメージだったんですが、体調が心配になるくらいの疲労感、悲壮感を漂わせていて、気安く声をかけられないほどで。佐藤さんだけでなく、他の作業員役の皆さんもそうでした。だから、お父さんと再会するシーンはもうその姿を見ただけで自然とこみあげてくるものがあって。佐藤さんの存在に引っ張ってもらったお芝居でした」
避難所でやっと再会した瞬間、堰を切ったようにあふれ出る安堵感。彼らも我々と変わらない、どこにでもいる家族だったことに気づかされる。
佐藤「少ない家族のシーンからでも、よくある家族の姿を感じてもらえればいいなと思います。つい衝突してしまう、年ごろの娘と父親のよくある関係性が見えれば、と。普段、平和なときであればそれでいいけど、有事の際には、もっとお互いにああすればよかった、と思ってしまう。そんな普通の親子としていられればいいね、ということをお互い共通認識を持つことができたのでよかった。吉岡さんとは、撮影に入る前に軽く話せただけだったけど、少し会話をしただけでクレバーな方だなと思って、吉岡さんなら大丈夫だろう、と思いました。…ごめんね、上から目線で(笑)」
吉岡「いえいえ(笑)、佐藤さんのような大先輩からこんなことを言っていただけるなんてうれしいです」
佐藤「吉岡さんは、自分と作品との距離感とか、いろいろ自分自身の頭で考えている人だな、と思いました。実際、エモーションだけでワーッと演じるのはあまり好きではないでしょ(笑)?」
吉岡「どうでしょう(笑)。確かに今回は、事前に学んでおくべきことも多く、自分なりに考えていた時間も多かったと思います。でも、お父さんが帰ってきたシーンは、素直に安堵感が湧いてきたんです。もっと、うれしい!という喜びの感情なのかと思ったんですが、意外と安堵感で泣けてくるというか、やっと家族が揃って、ほんの少しだけ日常が戻ったという安堵感を感じました」