民泊はコロナ禍とどう向き合う!? “副産物を生み出す”川越「古民家 惠比壽屋」の挑戦
日本的なスタイルを宿泊に紐づけてみる。お風呂にも入れて、ビールも飲める民泊、なんとも斬新だ。それにしても、その発想はどこからわいてきたのか?
「女房との長年の構想かな」、そう面映ゆそうに溝井さんは話す。
溝井さんの奥さんは、20代の頃、カナダのプリンスエドワード島の伝統的な建築の家の「Bed and Breakfast(B&B)」に宿泊した経験を持つそうだ。その家には重度の脳性麻痺の障害を持つ高校生の息子さんがいて、お母さんがこんな話をしてくれたという。
「この子は重い障害持っているから、なかなかこの町の外には出られないの。でもB&Bをしていると世界中の方々が来てくれるのよ。彼は世界のことにとても興味を持っているの。今、日本の道路は右と左が反対なの?って聞いてるわよ!」
現在、溝井さん夫妻には二人のお子さんがいる。「次男が知的障害を持つ自閉症です。次男の世界を広げられたらなって。女房が出会ったあのときのB&Bのような試みができたらと考えていた」。小江戸に魅せられた溝井さん夫妻は、高校卒業後カナダのトロントに留学、その後現地で調理の仕事をし帰国した長男とともに、川越に家族経営のカフェレストランをオープン。そのレストランにお客さんとして来店したのが、惠比壽屋の大家さんだった。
「当時、古民家の中身を見せてもらうと、いたるところがボロボロだった(苦笑)。でも、家族経営の宿を営むことがずっと我々の夢でした。精魂込めて、一から作り上げた」
いま、商家の面影が残る土間には、次男さんの織り工房があり、まばゆい織作品が並んでいる。この古民家は、海外から、国内から、川越から、さまざまな人が言葉を交わし出会う、ターミナルのような存在になっている。人が集うためには何をすればいいのか――、その発想が「古民家 惠比壽屋」を豊かにしている。宿泊の二文字を考えたとき、“宿”の機能性や快適さも大事だが、“泊”の意味を掘り下げることも大切だろう。泊(とまり)は、古語で船を停泊させる水域のことを意味する。着岸して、離岸する……その間にどんな出会いがあるのか、それが楽しい。