中村七之助 新作に挑む思いや父・勘三郎との“ホラーな思い出”を語る「リアルなチャッキー人形を…」
「幽霊より、人間のほうが恐ろしい」―。昨年、放送されたNHK BSプレミアムドラマ『令和元年版 怪談牡丹燈籠 Beauty&Fear』に続き、赤坂大歌舞伎『怪談 牡丹燈籠』(新型コロナウイルスの感染拡大と政府の緊急事態宣言を受け全公演中止)で、名作・怪談 牡丹燈籠に新たな視点で挑んだ歌舞伎役者・中村七之助。古典を守り継ぐこと、新たな挑戦を続けることに、込める思いとは。
(※このインタビューは2020年2月に行われたものです)
(※このインタビューは2020年2月に行われたものです)
撮影・蔦野裕 ヘアメイク:中村優希子(Feliz Hair) スタイリスト:寺田邦子
「怪談 牡丹燈籠」に潜む、現代にも通じる“人間の怖さ”
「幼いころから四谷怪談などを見ていましたけど、歌舞伎の怪談はそれほど怖いという感覚はありませんでした。映画の『チャイルド・プレイ』を見たときはトラウマになりましたけどね(笑)。僕は動物好きなのにアレルギーで動物を飼うことができなくて、よくぬいぐるみを買ってもらってかわいがっていたんですが、うちの父ときたら、映画を見てトラウマになっている僕にわりとリアルなチャッキー人形を買ってきたんです(笑)。さすがに他の人にあげていましたけど」
そんな中村七之助は、昨年NHK BSプレミアムドラマ「令和元年版 怪談牡丹燈籠 Beauty&Fear」で、お露と恋に落ちる若侍・萩原新三郎を演じ、赤坂大歌舞伎では飯島露(お露)役でドラマの演出を手掛けた源孝志監督とともに新作として牡丹燈籠に挑戦(全公演中止)。
「現在、上演されている歌舞伎の牡丹燈籠は杉村春子先生が演じられた舞台がベースとなっており私はそれを見て育ってきたので、もともとの原作である三遊亭圓朝の落語のことはそれほど意識したことはありませんでした。歌舞伎の牡丹燈籠は“役者で見せる”部分が強いというか、登場人物たちの生き方を通して人間の業の深さを考えるような、どちらかというとお客様自身が考えていただくことが多い作品だと思います。ドラマ『令和元年版 怪談牡丹燈籠Beauty&Fear』の脚本を読んだときは、すぐに、これは面白いと思いました。物語自体に因果因縁の深さというテーマが描かれていて、その因果因縁が男女関係だけでなく親子や師弟、恋人と入り乱れているところにエンターテインメント性の高さを感じました」
初めて衝撃を受けた新作歌舞伎は父・勘三郎の“東海道四谷怪談”
5月に上演を予定していた赤坂大歌舞伎『怪談 牡丹燈籠』は残念ながら新型コロナウイルスの影響で全公演中止が決定したが、同舞台は古典としても定番となっている演目を新作として上演するという斬新な試みだった。これまでにも多くの新作で幅広い世代に歌舞伎の魅力を伝えてきた七之助。自身にとって新作に挑むことの意義とは?
「僕が舞台を見て、最初に衝撃を受けた新作歌舞伎は父(十八代目中村勘三郎。当時は五代目中村勘九郎)が渋谷のシアターコクーンで上演した『東海道四谷怪談』でした。筋書きや設定を何か大きく変えているというわけではないのですが、舞台装置として本物の水を使ったりして、子供心にとてもワクワクした思い出があります。どうしても歌舞伎が高尚なものとして捉えられたりする時があり、何か新しいことをしようとしても、歌舞伎なのだからそんなことはするなと、役者もお客様も、そう言っていた時期があったんです。父がシアターコクーンで歌舞伎をやったときも、なぜ今さら渋谷でと、初めは大いに止められたということを聞きました。そういう風潮になってしまっていた時期はありましたけど、もとをたどれば、江戸時代はみんな新作のドキドキを楽しんでいた。脚本家も、書き上がって役者に見せるときにドキドキしたでしょう。そこで、これはつまらないとか、もっとこうしようよなんて言われて。そんな場から生まれたのが歌舞伎だと思います。最初はみんな新作で、面白い作品が残って古典となった。そんな、本来のあり方を壊さないという意味でも、古典と同時に、新作もやり続けるべきだと思っています。僕たちはこの時代に生まれてとてもラッキーです。もう少し前だったら新作なんてやらせてもらえなかっただろうし、歌舞伎役者がテレビに出ただけでも怒られていた時代もありました。それが今は、すばらしい先輩方が継承してくださったダイヤモンドのような古典作品があり、新作も受け入れてもらえる土壌ができている。すばらしい時代だと思います」