【徳井健太の菩薩目線】第59回 はんにゃ金田と、アイドルにまつわるYouTubeチャンネルを開設するとかしないとか
芸人が YouTubeへ参戦する動きが加速化している。かくいう俺も、実は、はんにゃの金田たちとともにアイドルについて語る YouTube チャンネルを開設しようという話が浮上した。なぜ過去形かと言えば、暗礁に乗り上げたからだ。
もともと企画の発案者は、金田だった。「アイドルについて語れるようなチャンネルを作りたい。徳井さん、一緒にやりませんか」と声をかけてきたことで、いろいろと準備をすることになった。
猫も杓子もYouTubeに進出している昨今、俺は一つだけ条件を出させてもらった。「視聴数(登録者数)は気にしない」、「炎上を恐れない」……平たく言えば、アイドルのために語るのであって、視聴者に合わせにはいかないと伝えた。どうせやるのであれば、妥協せずに覚悟を持った発言をしていきたい。それでもいいのであれば、俺は参加すると。やつは首肯した。
金田は、『JO1』(日本最大級のオーディション番組「PRODUCE 101 JAPAN」から生まれたグローバルボーイズグループ)について主に語りたいという。さらには、俺との共通項である『ももいろクローバーZ』や『欅坂46』についても語ろうと、事前に話し合った。そうして第一回目の収録を迎えた。が――。
終始、金田は空回りしていた。でも、俺はそれでいいと思った。説明は上手くない、とりわけて説得力があるわけでもない。それにもかかわらず、金田は成立させる魅力を持っている。あいつは天才肌の人間だから、それでいいと俺は思っている。ところが、本人はその様子に納得していないらしい。あろうことか収録後、「準備不足でした。別日にもう一度同じ内容で撮り直したい」と伝えてきた。「?」である。
俺と金田、二人だけで収録しているならまだしも、構成的な存在で松橋周太呂(家事えもん)や、若いスタッフもいる。当然、ノーギャラ、善意で参加している。言い出してから収録まで約2か月。自分のパフォーマンスに納得がいかないからと再録を要求する姿勢に、俺たちは反意を示した。前回の収録は配信して、収録するにしても先に進もうと。それでも、金田は再録を求めてくる。天才肌の奴は、何を基準にしているのか、さっぱり分からないもんだ。いつになったら配信されるんだろう。
エンタメの火を消さないためにできること
そもそもYouTube は、ラフな感じや素の瞬間、生っぽさが垣間見えるからいいのであって、テレビのように作りこんでしまったら、「テレビじゃん」となってしまう。俺は、金田の知られざるダメっぷりが伝わることで、あいつの新しい一面が開帳され、より面白さが増すと思っているのだが、あいつはどうやら“完璧な自分”を見せたいらしい……。芸人なんて、完璧じゃないから芸人なのに。
加えて、コロナ禍。企画は、暗礁に乗り上げた。金田の一部始終を、ここで詳細に綴ろうものなら、「俺のポンコツっぷりを広めないでください!」などと言われるだろうから控えておく。自分でそれを自覚しているんだから、「もういいだろ。楽になれ」とは思う。犯行を認めておきながら、裁判には出廷しない男――。
リモートによる収録など、探そうと思えば方法はあるかもしれない。ただ、あえてここは、金田の出方を待ってみたい。川でおぼれている少年を助けたら、10年後、その男はナチュラルボーンキラーズだった……的なジレンマもある。俺たちから金田に手を差し上てしまうと、運命を変えてしまうかもしれない。運命を変えてしまうことは、ときに恐ろしい結果を生み出してしまうからね。
そんなわけで、開設するのかしないのか、この先、どうなるかは俺も想像ができない。今現在、新型コロナウイルス感染拡大の影響もあって、エンタメ業界は大変な事態になっている。 ピンチの中にチャンスがある――なんて軽々しく言えないけど、YouTube を始めること自体は、それなりに意味があると思いたい。金田の試みは、応援したいんだけどね。前提として、エンタメの火を消してはいけないから。
コロナに対してきちんと恐れた上で、娯楽を楽しむ気持ちを忘れてはいけないと思う。俺たちは東日本大震災のとき、いろいろと学んだはずじゃないか。
※【徳井健太の菩薩目線】は、毎月10日、20日、30日更新です
◆プロフィル……とくい・けんた 1980年北海道生まれ。2000年、東京NSC5期生同期・吉村崇と平成ノブシコブシを結成。感情の起伏が少なく、理解不能な言動が多いことから“サイコ”の異名を持つが、既婚者で2児の父でもある。よしもとクリエイティブ・エージェンシー所属。公式ツイッター:https://twitter.com/nagomigozenz