齊藤工がオンラインの可能性と映画界への想いを語る「今のこの動きによって、最終的にまた劇場で至福の映画体験をしてもらいたい」

本編上映後にはトークイベントも配信

ステイホームは、“時間の主導権の持ち時間”が長すぎる


齊藤「mu-mo LIVE THEATERはオンラインでライブ配信する仕組みで、そういう文化自体は数年前から着実に進化するなか映画の世界においては奇しくもこの状況がターニングポイントです。僕自身が見つけた課題とともにSNSでの反応や直接いただいた感想なども踏まえて、この文化は観てくれているひとたちと一緒にトライ&エラーで発展させたいと実感しました」

直井「鑑賞体験として本編上映だけでなくあくまでもイベントをセットで配信することにこだわっているのもそういうことです。次は5月17日(金)と、22日(金)の2週にわたり金土日開催していくのですが、たくさんのゲスト出演や特別な企画を練っています。やはり上映後のイベントを通して作品を掘り下げるカルチャーがミニシアターに根付いているので、それをSHMTでもやっていきたい。今後はミニライブなど映画にあわせてコンテンツを変え、ごちゃごちゃさせたいなと。ちなみにこうしたミニシアターやインディペンデント作品の危機的状況に際して、SPOTTEDの “インディーズとメジャーのパイプになる”という立ち位置からすると大企業のエイベックスさんと一緒にその活路を見出していくのは意義深いです。エイベックスさんのお力を借りることで実現できそうなこともたくさんありますし。そういえば齊藤さんの作品を納品した瞬間mu-mo LIVE-THEATERの担当者さんから問い合わせをいただいたのですよ。ある仕掛けが、作品の一部かどうか判断できなかったという(笑)」

齊藤「『COMPLY+-ANCE』のような作品は特に公開劇場のアップリンクに来てくれるようなお客さんに対して“このチケットを買うって、どういうことか分かってますよね?”というような(笑)、見ることを選択した責任というのかな、暗黙の了解があって。それを前提に仕掛けができていたということですよね。こうしてオンラインで開かれてしまうと、ミニシアターの扉を開けるために必要だった暗号みたいなものが通用しない。となると今度はそこを逆手にとりたいですねえ」

直井「齊藤さんのように、いかなる状況に対しても抵抗がないどころか、さらに新しいことを推進できる方の作品を第一弾で上映できたというのは本当にありがたいことです。が、もしかして攻めすぎだったのかな(笑)」

齊藤「(笑)ところで、最近ステイホームすることは時間の主導権の持ち時間が長すぎるという苦しさを感じます。家にこもって個人の裁量で生活していて、アイスを食べすぎても誰も止めてくれないですし(笑)。もちろんテレワークにはそれぞれ方針やルールがあるでしょうが、とはいえ日々のスケジュール配分は自分に委ねられている。映画体験に置き換えると、リアルな映画館のタイムテーブルに合わせてみんなが足を運ぶこととリアルタイム上映は同じです。ただオンラインの、しかもサブスクリプションでの映画鑑賞が日常の場合“よし、じゃあ今からNETFLIXで何か見よう”というふうにタイミングを決めるのは見る側ですから、時間の主導権は観客の手に残っている。それと比べても、SHMTがリアルと同じように時間の主導権をもって“映画館”としてやる以上、雰囲気づくりが重要な課題だと感じました。受け取り手と発信する側の双方が意識的に世界を構築しないと」

直井「リアルタイム上映に関しては同感で、そもそもこのやり方でいけるか?という不安はありました。コストとも照らし合わせて2つの作品を全6回、3パターンの収録トークをつけて上映という形に落ち着いたのですが、劇場のトークイベントにおける一過性の良さをどう出せるか、生配信ならできるか?など検討しています」

――オンライン上映の取組みにもさまざまなものがありますが、たとえば「仮設の映画館」( http://www.temporary-cinema.jp/ )は、劇場を選択でき、各映画館で鑑賞する体験に紐づけられています。

直井「あと、オリジナル・マナー動画には“なるほど”と思いました。『仮設の映画館』とは仕組みからして共通項が多いので、だからこそ同じではなく、僕らならではのやり方が大事ですね。それがイベントへのこだわりを強くした点でもあります。プレオープンでシネマスコーレの坪井篤史副支配人、元町映画館の石田涼さん、横川シネマ溝口徹支配人に出演していただいたことも大きいですし、関連企画で齊藤さんたちにYouTube LIVE配信をしていただいたのも反響がありました」

齊藤「生配信をやってみて、見ている方とのコミュニケーションが取れるのもいいと思いました。あと映画を地上波テレビ放送する際にたまに副音声で生オーディオコメンタリーをやっていますよね、ああいうことにもトライしたいです」