なぜ「次亜塩素酸水」が問題とされているのか? 三重大・福﨑教授に聞く(中篇)【withコロナ】

三重大学大学院生物資源学研究科の福﨑智司教授
 同様に「『次亜塩素酸水』の空間噴霧について(ファクトシート)」も話題ですが、「次亜塩素酸水」を噴霧して消毒効果はあるのでしょうか?

福﨑「私も研究していますし、欧米の学術論文にも出ていますが、次亜塩素酸水を超音波式で噴霧した微細粒子が微生物やウイルスに接触すれば、必ず除菌効果が出ています。ただし、水溶液そのものではなく霧状にすることで、対象物に届くまでに濃度が減少します。私たちはもとの水溶液が、ある一定の距離に到達した時点での濃度を測定しています。空間噴霧といえば空間全体を消毒するかのようなイメージを持って話をする専門家も多いですが、決してそうではないのです。

 実際に空間噴霧を見たことがあると思いますが、上に吹き上げられた微細粒子は次第に落下を始め、やがて目に見えなくなります。目に見えなくなった微細粒子からは気体状の次亜塩素酸が揮発しています。気体というと通常は部屋全体に拡散するのですが、実際は次々に上から落下してくる微細粒子に吸着して吸収され、それを繰り返しているうちに濃度勾配ができます。つまり床に近いほど次亜塩素酸の濃度が高く、私たちの顔の位置、そして天井に近くなるにしたがって低くなります。空間の微生物を制御する際に、微生物がどこにいるかということを考えてみてください。微生物は浮遊するよりは何かに吸着したほうが安定するので、浮遊菌より付着菌のほうがはるかに多く、さらに床に近づくにつれ数が多くなるのです。浮遊している菌は換気をすれば、ある程度希釈されて薄まりますが、換気だけで室外に出ない付着菌や床の菌をどうするか、というのが問題なのです。

 空間噴霧の微細粒子は落下して、膝から下に溜まっている菌に作用します。たとえば汚れた空間で噴霧を行うと、私たちが着座した状態や起立した状態で顔の位置にくる次亜塩素酸はほぼゼロです。これを長時間続けていて、初めて2〜5ppbという薄い濃度になります。ちなみに作業環境許容濃度というのがあって、1日8時間、週40時間暴露しても人体に影響のない濃度が定められていて、塩素ガス(次亜塩素酸の代替指標)に対しては0.5ppm(=500ppb)で、このわずか1/100から1/250程度の濃度が顔の付近に漂うので、決して空間全体を消毒するという概念ではありません。

 私たちは企業から依頼があれば濃度測定を行い、測定データに基づいた技術指導を行なっています。データを持たずに販売している企業に警鐘を鳴らすファクトシートならば良いのですが、測定データをもとに正しく販売している企業までもが煽りを受けているのは残念な状況です」

(後篇に続く)
「微生物制御」の観点から「次亜塩素酸水」を読み解く 三重大・福﨑教授【前篇】
https://www.tokyoheadline.com/500554/

「次亜塩素酸水」空間噴霧の安全性と注意点は? 三重大・福﨑教授に聞く【後篇】
https://www.tokyoheadline.com/500608/
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