中小企業支援の最前線からみた「WITHコロナ」「BEYONDコロナ」
「とにかく“ちゃんとやる”ということが大事」と村形氏(撮影・堀田真央人)
とにかく日々やるべきことを“ちゃんとやる”ということが大事
家賃補助についての国の動きについては?
村形「だいぶ遅いですよね。新型コロナによる自粛というのは世の中全体の問題じゃないですか。それなのにテナントさんだけ、店も開けてないのに家賃を払い続けなければいけなくて、賃貸事業者はそんな状態でも決まった収入が得られるというのは、三方一両損ではないんだけど、苦労は分かち合ったほうがいいんじゃないかとは思いました。ただ遅ればせながらですが、朗報ですよね」
ほかに苦労された点はありますか。
村形「もう1点はお客様に関することです。今回の支援策全般に言えることですが、月次の会計処理をきちんと進めているとか、社会保険や労働保険の加入義務などのコンプライアンスを順守しているお客様への融資や助成金等の適用はかなり早い段階で進みました。一方で、会計が全く整理されていない事業者や、過年度に税務申告をしていない事業者、労働保険の加入義務違反があった事業者などの方々からも多くの引き合いを寄せられましたが、こういう方々は助成金を受けるのに時間がかかったり、場合によっては助成金を受けられなかったりするケースもありました」
ちょっとくらいインチキしてでも助成金が欲しいという人もいたのでは?
村形「もちろん、そういう方もいらっしゃいましたね。でも、コンプライアンス違反を隠したり、会計をごまかしたりして助成金の支給を受けると、詐欺罪など刑事罰の対象になることもあるため注意が必要で、私たちも、そのような事業者に対しては、お手伝いにも限界がありました」
きちんとしている事業者が得をしたと?
村形「“正直者は馬鹿を見る”ではなく“正直者は救われる”ということを、つくづく実感しています。とにかく“ちゃんとやる”ということが大事だと思います。今回、雇用調整助成金では社会保険とか労働保険への加入義務違反というものが問題になっているケースがあるんです。これは最初はアルバイトやパートとしてちょっとだけシフトに入ってもらうつもりだったものが、思ったより人が揃わなくて、加入義務が発生するくらい働かせてしまったのに手続きがなされていなかったといったものです。“飲食店あるある”で、致し方ない部分もあるんですが、違反は違反。でも経営者ならこういったことにちゃんと興味を持っていろいろ考えていれば途中で気づくことができたかもしれません」
細かい法律などを勉強することはちょっとハードルが高そうですが、自分を守るためにも「ルールをちゃんと守る」「面倒くさがらずにちゃんとやる」といったことは大事かもしれません。
村形「例えば飲食店でも、夜に営業ができないからランチをやったが人が来ない。じゃあテイクアウトをやろうということで、ちゃんと弁当の容器を用意して、弁当用のメニューを一生懸命作って、値段も手ごろにしてやってみたらうまくいった。夜の営業をしなくても弁当屋で生き残れるな、という結果になった人もいます。それは店を開けられないから何とかしようと思って、お弁当に一生懸命取り組んだ結果。その一方で“これはダメだ”とただ店を閉めていて、もらえると思っていた雇用調整助成金ももらえなかったというお店もありましたから」
最後に、このインタビューをご覧になっている方へのメッセージがあれば聞かせてください。
村形「今回のコロナウイルスの影響は長期化することが予想されています。このような状況では、“日々の帳簿管理をきちんと行っていること”“労働保険への加入など、各種法令を遵守していること”が支援を受けるための前提条件となります。
“当たり前のこと”のように思われる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、日々の営業活動に忙しい経営者やフリーランスの方がこれらを一人で行うのは大変で面倒かもしれません。そこで、“身近な相談相手”としてぜひ税理士をご活用いただければと思っています。
税理士に日々の帳簿について確認してもらうことで、今回のような事態においても“次の打ち手”を素早く検討することが可能になります。皆さんの不安をすこしでも取り除くお手伝いができればと考えています」
(撮影・堀田真央人)
〈プロフィル〉村形聡 公認会計士、税理士。慶應義塾大学経済学部卒。大手監査法人にて、幅広い分野にわたる会計監査に従事するかたわら、株式公開支援業務としてさまざまな業種に対するコンサルティング業務にも従事。独立後は、「会社を元気にする税理士」として税理士業務を主軸としながら、ベンチャー企業の経営コンサルティング業務、M&A支援コンサルティング、企業再生に関するコンサルティング業務、最近では、マーケティングや事業承継に関するコンサルティングにも力を注いでいる。