【徳井健太の菩薩目線】第68回 SNSのコメントを「見なければいいじゃん」と指摘する愚かさに気が付こう



ネットにあふれる誹謗中傷。その問題が指摘される際、「(SNSなどの)コメントやリプライを見なければいい」という意見を耳にする。特に、社会経験の長い人たちが若い世代に向けてそういったアドバイスを言いがちだ。

たしかにネットは、びっくりするほどバカなコメントや、どうしようもなく暇な人が暇つぶしで書いているとしか思えないようなコメントが散見している。挙句、誹謗中傷、誰かを傷つけるような心無い書き込みも目立つ。見る必要がないどころか、見るに堪えないわけだから、「見なければいい」という意見はもっともらしく聞こえる。

だけど、若い世代にとってネットは物心がついたときからあるものだろう。デジタルネイティブである彼ら彼女らは、日常的にネットやSNS上の書き込むを見るだろうし、ネット上で何かを表現することも珍しいことではない世代だと思う。つまり、ネットの中にはゴミのような意見や表現が存在する一方、優れた意見や掘り出し物のような表現もあることを、俺たちおじさん世代とは比べ物にならないくらい知っている世代なのではないかなと思うんだよね。

俺たちは、ネットの悪い面が気になってしまうから、仮にネット上で褒められたとしても大してありがたみを感じない。申し訳ないけど。でも、生活の中でネットが当たり前にあり続けた世代にとっては、ネット上で褒められることは、実際に対面で褒められることと同様のありがたさであったり、温度感を伴うものなのかもしれない。

おじさん世代よりもネットの良いところをたくさん体験しているのだとしたら、ネットの声の中には本当の声もあって、ネットの声をすべてシャットダウンするというのは、それはそれでありえない選択肢なのではないか――。もしかしたら、俺たちにとって親しい人の声を無視することと近い感覚かもしれない。そう思うんだよね。

「コメントを見なければいい」という意見こそ、ある世代から下になるとありえないわけで、そんな意見こそ聞く耳を持たれない。デジタルネイティブ世代にとっては、空虚なアドバイスだと思う。

人間は歳も重ねてくると、どういうわけか祖父や祖母世代の話を突然ありがたがる。人生経験が豊かな人たちの声を聞いておかないと、ものすごくもったいないように感じる。

では、10代が高齢者たちの話を重宝するかと考えたとき、「そんな話を聞いたところで何の意味があるんですか」なんて返答されるだろうことが想像に難しくない。俺たちがありがたがってしまうものを若い世代が理解できないように、10代がありがたがるものを、いったい俺たちおじさん世代は、どこまで理解しているのだろう。

ネットの声は、特に玉石混交だから複雑になる。良いコメントもあれば悪いコメントもある。どちらかといえば、うれしくないコメントの方が多い印象だ。でも、この混じりっ気は、何でも同じなはずだ。

良い大人もいれば、悪い大人もいる。良いおじさんもいれば悪いおじさんもいるわけで、悪いおじさんが多いからといって、すべてのおじさんの話に耳を塞ぐということにはならない。たとえ全体の2割しか良いおじさんがいなかったとしても、そのおじさんの助言が素敵だったり、かっこいいものだったりすれば、8割の悪いおじさんが吐いたどうでもいい過去の自慢話を払しょくするだけの価値はある。

良いおじさんと悪いおじさんを見極めるには、おじさんにたくさん出会うしかない。良いおじさんという響きの時点で、もう完全に悪いおじさんなんだけど、そこは目をつぶってほしい。良いネットの意見を知るためには、玉石混交を受け入れるしかない。とは言え、悪い意見を目にすればダメージを追う。“親しい人の声を無視することと近い感覚”なのだとしたら、それこそ悪い意見の過剰摂取は避けなければいけない。

脳の仕組みを利用しよう。

俺のケースで説明する。スベった後に、良い意見と悪い意見が入り混じった書き込みを見ると、面白いくらい悪いコメントしか脳に入ってこない。逆に、ウケたときに見ると心地よいくらい良い意見しか目に入らない。良い意見5:悪い意見5であったとしても、精神衛生が良いときに見れば良い意見10に見えるし、悪いときに見れば悪い意見10に映る。玉と石が混ざるネットの意見を見たいというなら、自分の調子が良いときに見るといいと思う。

それでも悪い意見が見えてしまうなら、悪い意見の定数を決めて、それを超えたら扉を閉めよう。「見なければいい」なんて意見は聞き飽きた。見ることが常態化している世代や、見なければいけない仕事上の人たちもいる。そんな人への助言が知りたいんだ。

※【徳井健太の菩薩目線】は、毎月10日、20日、30日更新です
【プロフィール】
1980年北海道生まれ。2000年、東京NSC5期生同期・吉村崇と平成ノブシコブシを結成。感情の起伏が少なく、理解不能な言動が多いことから“サイコ”の異名を持つが、既婚者で2児の父でもある。吉本興業所属。
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