堀潤と宮瀬茉祐子に聞く『モーニングCROSS』の異彩さとその魅力
宮瀬茉祐子(撮影・堀田真央人)
堀さんから見て宮瀬さんはどんな方ですか?
堀「僕はコメンテーターとしての宮瀬さんをすごく頼りにしています。ゲストの方もエンジンがかかっていない時や意見がまとまっていない時もあるんです。そういう時に宮瀬さんに振るといつもいいコメントをしてくれる。“なるほど”と思わせられることが結構あります。局アナ出身だと“個人の意見は言ってはいけない”という教育を散々されるので、自分の意見を言うのは実は苦手なんです」
宮瀬「基本的には中立を求められてきたので、最初は意見を求められた時に“どうしよう”とすごく戸惑いましたけど、この5年間で堀さんにすごく鍛えてもらいました。勇気をもってドキドキしながらですけどね。それで分からないニュースがあったら、堀さんに教えてもらっています」
何を聞かれるか分からないから、堀さんも勉強は欠かせない?
堀「そうなんですよ。いつも新聞も丁寧に読み込んでいるので宮瀬さんのほうがよく知っている。“こうだったじゃないですか”って言われて、心の中で“ああ、そうだったんだ”って(笑)。で、“なるほどね~”とか言いながらスマホで調べたりして“確かにね~”とか言ってごまかすこともあります」
今年も上半期が終わり、一番印象に残っているニュースは?
堀「やっぱりコロナですよね。何が怖いかというと、不安とか先行きの不透明さは、あっという間に自分の選択する権利を差し出してしまうことがある。よく分からないので、ちゃんと決めてくれたらいいという発想になりがちで、自分から権限を時の権力に差し出してしまったりする。あと、専門家頼りになってしまって、よく分からない分野がどんどん増えていくことで、それに乗じて強い権限を行使することに慣れさせようという機運があるのではないかと思っています。その辺が非常に心配。民主主義みたいなものがすごく問われていると思うんです」
その気配は見える?
堀「ありますよね。緊急事態宣言を早く出してほしいみたいな方向にどんどん向いていってしまっていたし“政治がもっと決断するべきだ”とか“規定を作ってもらわないと動けない”という声が結構あって“流されていませんか?”と思っていました。自分たちで決めるということの大切さだったり価値は見失ってはいけないと思います」
では都知事選で投票率が下がっているのは信じられないですよね。
堀「現職で構いませんっていうことですよね。中身がどうだったかということは関係なく、安定とか安心とかを求める時というのは権力が力を持つ時なので、そういうことをメディアとしては軸はぶれないように見ていきたいですね。だから空気に水を差せるかどうかが問われているんだと思います」
権力の監視は当たり前で、世間の空気に水を差すというのも大事?
堀「権力を暴走させるのも大衆ですから。権力のほうばかり見ていても暴走は止まらないというか、やはり怖いのは社会の空気のほうだと思うので。かつて太平洋戦争開戦に至る経緯を見ても“東条は弱腰だ”と批判していたのはメディアで、大衆から支持を集めるためにそういうスタンスを崩さなかった。だから空気に水を差さないといけない。空気が変われば、権力も見るほうを変えざるをえないですから」
宮瀬「私もやはりコロナのニュースが一番気になっています。私自身が発熱をしてしまった時に体験したんですが、風邪をひいてもPCR検査で自分が感染したかどうかを証明しなければいけない。今のコロナ禍での社会の雰囲気というものもありますけど、ミスを犯したわけではないし、攻められているわけでもないのに、なんとなく、じわじわと疎外感を感じさせてしまうような社会の空気というものはコロナウイルスよりも怖いかなと思っています。何をもって健康なのかは分からないですけど、それをしっかりと示していかないといけないという空気感は怖いものだなと肌感覚で思いました。日本はその同調圧力で政府がしっかりしていなくても、なんとなくで感染を抑えられているところがあって、世界の人から見たら不思議でしようがないと思うんですよね。同調圧力がいいように働くこともあるかもしれませんが、今回、日本人のそういう空気感を初めて感じたというか、これはどうなっていくのかなと不安ですね」
おちおち具合も悪くなれないですよね。
堀「普通に暮らしていたら1年に2~3回、熱っぽい時なんてあるじゃないですか。そんな普通のことで自分自身にも申し訳なさを感じさせられるというか」
宮瀬「職場に関しては皆さんにごめんなさいなんですけど。ごめんなさいと言うと、謝る必要はないという批判も来たりとか…」
堀「謝らないと“なんで謝らないのか?”という批判が来る(笑)。“こんなにみんなをヒヤヒヤさせて責任は感じないのか?”とか。本当に嫌な社会ですよね(笑)。相互監視社会で“非国民だ”とか“不謹慎だ”といった空気を作り、統治していくありようというのはあまり変わっていないなと思いますね」
宮瀬「ただ、そのお陰で、若干政府の方針が揺らいでもコロナが収まっているというのは皮肉なことだなと最近は思いますね」
コロナ自体いつまで続くのか…不安ですよね。
堀「でも今回のコロナが引き起こした混乱というのは過剰に開発をしたり、人とモノの移動とかそういうものが過剰に速度を上げ過ぎた結果の破綻ですよね。だからここでもうちょっと生産を取り戻すというか、横にものを移して利益をあげるという経済ではなくて、本来の半径数メートル、数キロ範囲内で物を作ってその中で消費してという、本当の内需の在り方というかそういうふうに経済をシフトしていくいいチャンスなんじゃないかと思っているんですよね」
リモート社会になることで人と人の関係性はどうなると思います?
堀「よくなるんじゃないですか。無駄に会う時間が減るし、会えないことで会うことの価値が相対的に高まりますよね。なくなって初めてそれが必要だと思えるので会えることの価値がすごく高まったと思うし、触れ合うなんてことはさらに高まったんじゃないですか。握手さえできない。だから握手ができるということがどんなに尊いことか、とか。人付き合いもより付加価値が高まっていくと思います。この間、NHKのニュースの見出しがちょっと炎上していました。“専業主婦の4分の1が旦那のリモートワークを支持しない”みたいな見出しがついていたんです。でも4分の3はいいなと思っているわけでしょ。“なんでネガティブなほうを取っちゃうの?”って話題になる。そのくらい、“結構家族って大切なものだったんだね”とか、“家にいることは本当はいいことなんだよね”とか、そういうことが浸透してきたんだなと思います」
今の話は出来事をどちらから見るかという話につながりますね。
堀「日本のメディアは得てして “4分の1は求めていない”みたいな見出しを取りがちだし、世の中は悲劇と不幸に満ちているというような話で終始することが多い。『モーニングCROSS』が立ち上げ当初から心掛けているのは、そっちではなく解決策とか改善のためのアクションのほうを専門家の皆さんにも聞き出そうとしているので、朝一で見ていただいて、暗い気分になるのではなくて、“そうか、その手があったか”みたいな気持ちで一日を過ごしていただくということは基本的に大切にしていますね」
前向きにニュースを伝えるということ?
堀「楽なんですよ。泣いているところとか、苦しんでいるところを伝えるのは。でもそれでは何も進まないというか。それより注目されなくても頑張っている人はいるわけで、そういう知恵をお借りしたいと思っています。また偉そうに語ってしまいましたけど(笑)」
(TOKYO HEADLINE・本吉英人)
堀「僕はコメンテーターとしての宮瀬さんをすごく頼りにしています。ゲストの方もエンジンがかかっていない時や意見がまとまっていない時もあるんです。そういう時に宮瀬さんに振るといつもいいコメントをしてくれる。“なるほど”と思わせられることが結構あります。局アナ出身だと“個人の意見は言ってはいけない”という教育を散々されるので、自分の意見を言うのは実は苦手なんです」
宮瀬「基本的には中立を求められてきたので、最初は意見を求められた時に“どうしよう”とすごく戸惑いましたけど、この5年間で堀さんにすごく鍛えてもらいました。勇気をもってドキドキしながらですけどね。それで分からないニュースがあったら、堀さんに教えてもらっています」
何を聞かれるか分からないから、堀さんも勉強は欠かせない?
堀「そうなんですよ。いつも新聞も丁寧に読み込んでいるので宮瀬さんのほうがよく知っている。“こうだったじゃないですか”って言われて、心の中で“ああ、そうだったんだ”って(笑)。で、“なるほどね~”とか言いながらスマホで調べたりして“確かにね~”とか言ってごまかすこともあります」
今年も上半期が終わり、一番印象に残っているニュースは?
堀「やっぱりコロナですよね。何が怖いかというと、不安とか先行きの不透明さは、あっという間に自分の選択する権利を差し出してしまうことがある。よく分からないので、ちゃんと決めてくれたらいいという発想になりがちで、自分から権限を時の権力に差し出してしまったりする。あと、専門家頼りになってしまって、よく分からない分野がどんどん増えていくことで、それに乗じて強い権限を行使することに慣れさせようという機運があるのではないかと思っています。その辺が非常に心配。民主主義みたいなものがすごく問われていると思うんです」
その気配は見える?
堀「ありますよね。緊急事態宣言を早く出してほしいみたいな方向にどんどん向いていってしまっていたし“政治がもっと決断するべきだ”とか“規定を作ってもらわないと動けない”という声が結構あって“流されていませんか?”と思っていました。自分たちで決めるということの大切さだったり価値は見失ってはいけないと思います」
では都知事選で投票率が下がっているのは信じられないですよね。
堀「現職で構いませんっていうことですよね。中身がどうだったかということは関係なく、安定とか安心とかを求める時というのは権力が力を持つ時なので、そういうことをメディアとしては軸はぶれないように見ていきたいですね。だから空気に水を差せるかどうかが問われているんだと思います」
権力の監視は当たり前で、世間の空気に水を差すというのも大事?
堀「権力を暴走させるのも大衆ですから。権力のほうばかり見ていても暴走は止まらないというか、やはり怖いのは社会の空気のほうだと思うので。かつて太平洋戦争開戦に至る経緯を見ても“東条は弱腰だ”と批判していたのはメディアで、大衆から支持を集めるためにそういうスタンスを崩さなかった。だから空気に水を差さないといけない。空気が変われば、権力も見るほうを変えざるをえないですから」
宮瀬「私もやはりコロナのニュースが一番気になっています。私自身が発熱をしてしまった時に体験したんですが、風邪をひいてもPCR検査で自分が感染したかどうかを証明しなければいけない。今のコロナ禍での社会の雰囲気というものもありますけど、ミスを犯したわけではないし、攻められているわけでもないのに、なんとなく、じわじわと疎外感を感じさせてしまうような社会の空気というものはコロナウイルスよりも怖いかなと思っています。何をもって健康なのかは分からないですけど、それをしっかりと示していかないといけないという空気感は怖いものだなと肌感覚で思いました。日本はその同調圧力で政府がしっかりしていなくても、なんとなくで感染を抑えられているところがあって、世界の人から見たら不思議でしようがないと思うんですよね。同調圧力がいいように働くこともあるかもしれませんが、今回、日本人のそういう空気感を初めて感じたというか、これはどうなっていくのかなと不安ですね」
おちおち具合も悪くなれないですよね。
堀「普通に暮らしていたら1年に2~3回、熱っぽい時なんてあるじゃないですか。そんな普通のことで自分自身にも申し訳なさを感じさせられるというか」
宮瀬「職場に関しては皆さんにごめんなさいなんですけど。ごめんなさいと言うと、謝る必要はないという批判も来たりとか…」
堀「謝らないと“なんで謝らないのか?”という批判が来る(笑)。“こんなにみんなをヒヤヒヤさせて責任は感じないのか?”とか。本当に嫌な社会ですよね(笑)。相互監視社会で“非国民だ”とか“不謹慎だ”といった空気を作り、統治していくありようというのはあまり変わっていないなと思いますね」
宮瀬「ただ、そのお陰で、若干政府の方針が揺らいでもコロナが収まっているというのは皮肉なことだなと最近は思いますね」
コロナ自体いつまで続くのか…不安ですよね。
堀「でも今回のコロナが引き起こした混乱というのは過剰に開発をしたり、人とモノの移動とかそういうものが過剰に速度を上げ過ぎた結果の破綻ですよね。だからここでもうちょっと生産を取り戻すというか、横にものを移して利益をあげるという経済ではなくて、本来の半径数メートル、数キロ範囲内で物を作ってその中で消費してという、本当の内需の在り方というかそういうふうに経済をシフトしていくいいチャンスなんじゃないかと思っているんですよね」
リモート社会になることで人と人の関係性はどうなると思います?
堀「よくなるんじゃないですか。無駄に会う時間が減るし、会えないことで会うことの価値が相対的に高まりますよね。なくなって初めてそれが必要だと思えるので会えることの価値がすごく高まったと思うし、触れ合うなんてことはさらに高まったんじゃないですか。握手さえできない。だから握手ができるということがどんなに尊いことか、とか。人付き合いもより付加価値が高まっていくと思います。この間、NHKのニュースの見出しがちょっと炎上していました。“専業主婦の4分の1が旦那のリモートワークを支持しない”みたいな見出しがついていたんです。でも4分の3はいいなと思っているわけでしょ。“なんでネガティブなほうを取っちゃうの?”って話題になる。そのくらい、“結構家族って大切なものだったんだね”とか、“家にいることは本当はいいことなんだよね”とか、そういうことが浸透してきたんだなと思います」
今の話は出来事をどちらから見るかという話につながりますね。
堀「日本のメディアは得てして “4分の1は求めていない”みたいな見出しを取りがちだし、世の中は悲劇と不幸に満ちているというような話で終始することが多い。『モーニングCROSS』が立ち上げ当初から心掛けているのは、そっちではなく解決策とか改善のためのアクションのほうを専門家の皆さんにも聞き出そうとしているので、朝一で見ていただいて、暗い気分になるのではなくて、“そうか、その手があったか”みたいな気持ちで一日を過ごしていただくということは基本的に大切にしていますね」
前向きにニュースを伝えるということ?
堀「楽なんですよ。泣いているところとか、苦しんでいるところを伝えるのは。でもそれでは何も進まないというか。それより注目されなくても頑張っている人はいるわけで、そういう知恵をお借りしたいと思っています。また偉そうに語ってしまいましたけど(笑)」
(TOKYO HEADLINE・本吉英人)