知られざる猟師の日常に密着 映画『僕は猟師になった』千松信也さん

罠にかかった獲物はその場で棒でどつき、失神させてからトドメを刺す
 狩猟を始めてからおよそ20年。この間の環境の変化について教えてもらった。

「まず、山に関わって仕事をする人が減りました。林業や山際で農業をする人が少なくなったことで、杉や檜の植林地がほとんど管理されないまま放置され、動物たちにとっては食べ物のない森になったり、畑だった場所が藪になってイノシシの住処に変わったり。ここ数年は台風や水害などの災害で、昔だったら薪の材料に使われていた倒木が増え、放ったらかされてぐちゃぐちゃになっている山も多いですね。

 僕が狩猟を始めてから特にシカは増え続けていたのですが、国や自治体が猟師の育成に力を入れて有害駆除の報奨金を上げるなどした結果、数が落ち着いたように見えるエリアもあります。ですが、獲りにくい場所に移動しただけで、アクセスが悪い場所では増えたままですし、人間の考え通りにいっているわけではありません」

 公開直前、新型コロナウイルスの流行で私たちの日常生活も大きく変わった。千松さんはどう過ごしていたのか。

「街で仕事をしているとマスクや消毒が必要ですけど、山では消毒薬のにおいを落とさないといけないし、獣のにおいに気づけないのでマスクも取る。自分の暮らしの二重性をより実感しましたね。子どもたちも山では伸び伸びしていられるので、学校に行けない時は毎日焚き火して肉を焼いたり、ナイフで木を切ってきて木刀を作ったり、『このままの生活が続いたらいいのに』と言っていました(笑)。この暮らしのおかげで、楽しく過ごせたという部分もあります」

 完成した作品に対して、最後に千松さんはこんなひと言を寄せる。

「映画は普段の僕の暮らしの一部。図らずも自分がどう生きていくかが問われる時代になり、見る人の暮らしや抱えている問題に照らし合わせて、参考にしてもらえる何かがあればいいなと思っています」

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