40年以上前に原案が! SNS映えで人気のミニチュアテーマパーク『スモールワールズ TOKYO』誕生秘話
起業家の本棚 ~注目の起業家が語る「その時、私を支えた1冊」~
近藤正拡 さん(株式会社 SMALL WORLDS 代表取締役)
「実はスモールワールズのアイデアは 1970年代にすでに生まれていたものなんです。僕は そのアイデアを受け継いで実現させたに過ぎないんです」
そう語るのは今、話題のミニチュア世界のテーマパーク『スモールワールズ TOKYO』を 運営する株式会社 SMALL WORLDS代表の近藤正拡さん。2008年、近藤さんは東京ディズニーランド誘致を実現させた伝説的人物・堀貞一郎氏と出会う。スモールワールズの原案は、その堀氏が 1970年代に企画したものだったという。
「1975年に掘さんが書かれた第一原稿の企画書があり、1990年代にそれを手直ししたものが、スモールワールズの原型となっています。僕は堀さんの資料整理を手伝いながらその企画書を読ませていただいたのですが、それは金融で働いてきた視点から見てもサービスを立ち上げた視点から見ても、見事に考えつくされているものでした。読んだ瞬間にビジョンがすべて見えたんです。これをぜひ、自分の手で実現したいと思いました。企画書を読んだ翌年には、スモールワールズを設立する目的で、当時務めていたヤフーを退職したんです。
堀さんはスモールワールズの原案を企画した 1970年代に、これからの日本の人口の変異や社会構造、どんな文化が到来するかということを予測していました。やがて携帯電話の普及率が9割を超え、人々はリアルなコミュニケーションをより望む時代になるだろうという仮説を当時すでに立てており、東京ディズニーランドや東京ディズニーシーはそれに基づいて新たなカルチャーを生み出すことに成功しました。70年代や90年代にした予測がほとんど外れていないって恐ろしいことですよ。そんな堀さんの企画に惚れ込んで、僕も人生をかけたいと思ったんです」
スモールワールズ設立を決意した当時、近藤さんが読んでいたのがその堀氏の著作。
「堀さんと出会ってすぐに、もっと堀さんのことを知ろうと思ってまず読んだのが『“感動” が人を動かす』と『人生は出会った人で決まる』でした。ここに書かれていることは、今の 僕の考え方の柱となっています。『“感動”が人を動かす』は、東京ディズニーランド立ち上 げのバックグラウンドストーリーが記されている本です。僕の前職は、いわばインターネットの世界で人を集めるのが仕事でしたが、テーマパークはリアルに人を集めなければならない。そのために、ディズニーで堀さんたちが目指したのは“人の心を揺さぶる”ことでした。 僕はネットで人を集める戦略は一通りやり尽くしたと思っていたのですが、顧客の心をつ かむサービスを生み出すには人の心を動かすことだという原点に立ち返らせてくれた本でもありました」
会社で働きながら起業準備を進める人が多い中、近藤さんは起業を決意して間もなく退職し、2016年に株式会社 SMALL WORLDSを設立するまでの約6年間、さまざまな企業やプロジェクトを手伝いながら起業準備を進めていくという形を選んだ。
「その6年間は、堀さんが生み出したビジョンを自分の中に落とし込みながら、起業に必要なスキルや人材、人脈を集めるためにも必要な時間でした。その期間、僕は堀さんのもとに何度も通いながら、堀さんがどうやってここまでの企画を作ったのか、彼のたどった思考を追体験する作業をしていました。堀さんは答えどころかヒントすらくれないんです(笑)。 今は資料をすべて引き継いだので分かっていますが、当時は1つずつ、堀さんと問答のようなやりとりをしながら、堀さんがその企画を生み出していった過程を辿っていきました」
その準備期間、堀氏の企画を自分の中に落とし込み、自らもさまざまなプロジェクトに携わり、その経験を生かしながら事業計画に磨きをかけていった近藤さん。
「中でもとくに大きな経験となったのが、伊佐山元さんが代表を務めるWiLと経産省がともに立ち上げたイノベーター育成プログラムに携わったことでした。これは日本の起業家をシリコンバレーに送りイノベーションの現場を体験させるというプロジェクトで、僕自身も勉強になることが本当に多かったです。この経験とともに重要な知見を与えてくれた のが、入山章栄さんの『世界標準の経営理論』です。イノベーションに関する本で、主要な 経営理論の数々を解説する内容となっています。この本は、堀さんの企画書に対して、僕が 自分なりの考え方を加えるうえでとても重要な本となりました。企画書に書かれていない 部分、いわば未知の世界に入ったときに、自分なりの答えを見出していく助けになった本です」