脚は何本?知ってるようで知らない「有頭エビ」を解剖してみた
9月の第3月曜日は「海老の日」。長いヒゲと腰の曲がったところが老人に似ていることから、長寿の象徴とも言われるエビを「敬老の日」に食べ、高齢者に感謝と敬意を表し末長い健康と長寿を祝おうというもの。そんな「海老の日」を前に、知ってるようで意外と知らないエビを知ってもらうべく、一般社団法人日本海老協会がYouTube動画を見ながら学べる小学生向け自由研究キット『おさかな解剖キット』を提供している。エビに目がない編集部、早速1セット入手して大人の自由研究に挑戦してみた。
そもそも、なぜ本物のエビを解剖しようと考えたのだろうか? その理由を、日本海老協会理事で海老料理研究家の藤井稚代さんは「毎年、エビフェス(今年は19日にオンラインで開催)という普及イベントを行なっているのですが、今年は従来型のイベントができないので、リモートで子どもたちに楽しんでもらえるものを目指し、毎年好評の『お魚解剖学習&プロに習うまるごと料理教室』をキットにしました」と語る。水産庁長官が魚食文化の普及・伝承に努める人を任命する「お魚かたりべ」の早武忠利先生の人気教室をYouTubeで配信。自宅でレクチャー動画を見ながら実物と触れ合ってエビの秘密(エビポイント)を学ぶ。
編集部に届いた『おさかな解剖キット』を開封すると、冷凍された立派なオーストラリア産シータイガー(天然ブラックタイガー)5尾、解剖マニュアル、おさかなお絵かき用紙が入っている。解剖しやすいように大きなエビを選んでいるといい、スーパーで見かけるクルマエビなどに比べかなりのボリューム。YouTube動画にアクセスし、お絵かき用紙になにも見ずにエビを描いてから、トレーにチョロチョロ水を流して冷凍エビを解凍する。日本で流通しているエビのほとんどが、実は冷凍エビなのだとか。早武先生が解凍したエビの一番かわいく見える角度、頭とお尻のチクチク、触覚、脚の本数などを説明する。ここでエビには泳ぐ脚、歩く脚、エサを食べる脚を含め、合計で26本もの脚があることが判明。改めてエビを見ながら写生すると、思っていたエビと全然違う……。
さらにエサを食べる脚をかき分けたところに口とアゴ、その近くに胃袋があり、そこからお尻まで入っている背わた(腸管)を、頭と殻の間に竹串やつまようじを刺して抜き取る。背わたに詰まった食べ物は胃袋からきており、よりおいしく食べられるようにエビの口からピンセットや毛抜きを使って胃袋を取り出す。エイリアンと格闘するリプリーのような心境で、口からピンセットを突っ込んで、なんとか胃袋を取り出すことに成功。背わたと胃袋はエビの苦みの元凶になるそうで、ここまででエビの下処理が終わり食べる準備が整ったことになる。片側の脚を一本一本取って並べてみると、目的に応じて脚の形がまったく違うことに気がついた。
解剖が終わったら、あとは好きに料理して食べるだけ。歩く脚の部分から殻をペリペリ剥がしてきれいに剥く。編集部では早武先生のおすすめ「有頭エビのお吸い物」と「有頭エビとキャベツの包み焼き」を作って食べたが、藤井さんいわくお腹に塩をふってシンプルに焼くだけでもおいしく食べられるという。また、有頭エビの頭を捨てると食べられる部分が半分になってしまうため、殻をオリーブ油で炒めてブイヨンやそのまま唐揚げにしたり、お吸い物のだしがらを刻んで煮物に入れたり炒めてふりかけにするなど、ちょっとした工夫でフードロスが防げるというアイデアも。
このコロナ禍で外食で販売される高級食材の需要が激減し、一年に一度しか獲れない旬の海産物の多くは行き場をなくしている。また、海外研修生などの働き手がいないため、水揚げされても加工できない状況が続いているという。そうした状況に対して私たちができることを藤井さんに聞くと「旬の水産物を買って、自分でさばいて食べてみることです。最近ではスーパーに行けば、水産物をさばいてくれるサービスもありますし、通信販売などで生産者と消費者がダイレクトにつながる機会も多いと思います。ほんの少し『普段は食べないエビを食べてみようかな』と心がけるだけで、そうした水産物を救うことができます」と教えてくれた。これからの季節は芝海老がおいしいのだとか。
「普段スーパーに並んでいるエビも、生き物としてとらえるともっと楽しく買い物できますよ」と藤井さん。今回のキットはフードロスに悩む漁師さんを応援するオンラインショップ「ABSEA(エビシー)」で9月末まで販売予定。もちろんスーパーで売っているエビでも代用できる。なにげなく口に運んでいたけれど、よく観察すると知らないことだらけのエビ。この機会にあなたもエビに親しんでみては?
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